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「それにしても、住み込みの庭師を雇っていた身分だったことも、明け透けに話すのだな。第二分隊長が相手だったから、というのもあるのだろうが」  奏人が零した小さな小さな呟きは、彼にとって大きな疑問。  辺境騎兵連隊に赴任する前、兵士全員の経歴書に目を通した奏人は、花宮煌が下級貴族の跡取りとして育ったことを知っている。  彼が士官学校に在学中、帝都で起こった暴動に巻き込まれて両親が死亡した。直後、信頼して家業を任せていた親族に財産を奪われて、士官学校を中途で辞めざるを得なくなった。  本来ならば、士官学校卒業とともに与えられるはずであった少尉の階級は不意になり、辺境で一兵卒から叩き上げて現在に至る。二十九歳という年齢で軍曹、第一分隊長になっていることからも、煌の不断の努力、能力と戦功は明らかだ。であるからこそ——。 「もったいない、な」  部下からも同僚からも厚い信頼を寄せられている花宮が、尉官になれる道が無いことが。  その可能性を作るとすれば、奏人の右腕として連隊の副隊長に据えることしかないのだが。花宮本人が、それを承服するわけがない。  お前は、私を嫌っているから……。 「何、読んでるんですか?」 「……ガリア戦記だ」 「ガリア? あぁ、カエサルの遠征記録ですね。面白いですか?」  まさに今、その人物のことで頭をいっぱいにしていたところに当の相手から唐突に話しかけられ、奏人の心臓は大きく跳ね上がった。  が、そんな内心は、彼の通常装備である無表情が完璧に隠してくれるので、煌に気取られることはない。至極便利な装備である。
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