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 功太と付き合い始めて五年が経った。  恋人になったばかりのときは、相手が功太でもトキメキや情熱があった。初カレやったし。でも今は空気のような存在にお互いなりつつある。小学生のときのように。    そんなある日。  二人でテレビを見ていると、芸能人が大きなダイヤがついた指輪を得意げに見せていた。それを見て功太が言った。 「沙都子もああいう指輪、欲しいと?」 「私はこの指輪で十分」  左の中指にはまっている指輪を見せる。小さな誕生石が入ったその指輪は、初任給で自分で買ったものだった。  すると功太は言った。 「違うやろ?」  そして自分の右の薬指にある指輪を見せた。  ーーあ。  同じ指輪が私の右の薬指にもはまっていた。それは付き合って初めてのデートのとき、露店で功太が買ってくれたペアリングだった。シンプルな細めのシルバーリング。  私は恥ずかしくなった。トキメキも情熱も薄れたのは私だけだったのかもしれない。  このとき私は功太と結婚したいと思った。    二年後。  私の名字は中川になり、左の薬指には露店で買った銀の指輪がある。私と功太との思い出を刻んだ、世界に一つだけの結婚指輪だ。 「まさか、功太が運命の相手やったとはね」 「まさかってなんなん。そうだ。久しぶりに腕相撲せん?」 「ええ? イヤ。もう勝てんから」  私の言葉に功太はニヤッと笑った。 「沙都子、気付いてなかったろ? 俺、負けてやってたんぜ」 「え?! 知らんかった! なんか懐かしかね」  私たちはどちらからともなく手を繋いで笑い合った。 「あのとき矢口が言ったの、当たってたっちゃん。本当、沙都子ニブいっちゃけん」  少し遠回りした運命のふたりは、今やっとこうしてる。 了       
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