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この世界には、人を鼓舞する言葉が少なからず存在する。
『出来るか出来ないかじゃない。やるかやらないかだ』『諦めたらそこで試合終了』──日々ひたむきに物事に取り組む私たちにとって、それらの言葉は一歩踏み出す原動力となる。
それが現実において、直にかけられた言葉なら尚更。
私は小さく息を吐くと、エッジを滑らせスケートリンクの中央に躍り出た。
観覧席から一斉に上がる歓声を遠くに、今一度コーチからかけられた言葉を脳裏に響かせる。
──君の舞台だ、精一杯楽しめばいい。だが、これだけは約束するように。
演技することを迷わない、恐れない。少しでもその気持ちが生じれば、必ず隙が出来る。
──失敗とは、その隙を許した自分が引き起こすものだ。
リンクに立っている今このときだけは、頭ではなく身体で考えること。
コーチ、どうか信じていてください。今日、私は誰よりも大きく長く羽を広げてみせます。
瞳を伏せる。右手を宙に掲げ、左手は胸元へ。
組曲『仮面舞踏会』──ハチャトゥリアンのワルツが流れると同時に、私は大きく躍動した──。
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