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明日の朝
カウンター越しの店長は、スプーンやフォークをクロスで磨きながら私に言った。
「ハルナはもうここには来ないよ。気まぐれで来るかもしれないけど、多分、もう来ない」
二人はお互いの夢にむかうため、離れる選択をしたのだという。
店長は喫茶プテラーノを大きくするため。
ハルナさんは自分のお店、美容院をもつため。
恋人同士という枠に縛られてる感覚をなくすため。
お互いを支え合えるパートナーを見つけたほうが、お互いのためになると判断し、半年も前に話はついていたそうだ。
「ハルナとの恋愛関係はずっと前から終わってたんだ。君がここに来た時にはもうそんな感じだった。まあ夢を追う同士ってとこだったかな。だから、恋人と呼ぶにはしっくりこない状態だったんだよ」
私は驚いた。そんなふうには見えなかったから。
「君が初めてお客さんとして来たあの日から、俺はずっと惹かれてたよ。一目惚れのようなもんかな。一気にテンションあがったよあの時。だから、あのまま手伝いだしてくれたときは本気で驚いた。しかも会社まで辞めてさ」
恥ずかしそうに、でも嬉しそうに話す店長が私を見つめてる。
「なあ。ずっとここにいてくれないか。アルバイトとしてもそうなんだが、なんていうか……、」
私の胸の高鳴りが、店長の言葉に呼応していくのが分かる。
「帰りの夜道を心配しなくていいようにというか、送らなくてもいいというか……」
私はカップを置き、かしこまったふうで次の言葉を待つ。
「あーはっきりしねぇな俺は! だから即ち! 俺は君が好きだ。付き合ってくれないか」
あまりの急展開に私は頭が沸騰し出した。
こ、こ、こたえねば。
「わた、わた、私もずっと大好きでした」
信じらんないくらいに嬉しい。
「はは、ありがとな。新メニュー完成まではと思ってたんだがもう無理だった。今度の休み、二人で揃いのカップを買いに行かないか。家に帰したくない衝動も抑えられなくなってる。ここでモーニング作ってやるよ。そのときのために」
私はその時ひらめいてしまった。
「新メニュー、恋人達のモーニングってどうですか。少しいやらしいかな」
はにかむ私を見て店長が微笑む。
「なるほど。
だったら明日の朝、試してみるか?」
ねぇ店長、私に素敵な居場所を与えてくれてありがとう。
大好きです!
おわり
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