喫茶プテラーノ

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喫茶プテラーノ

 今日のランチは喫茶『プテラーノ』。  オープンしたのはおよそ2年前らしい。  足を運ぶのが今日初めてって、私はなんてどんくさいんだろう。  情報過多の時代に、入ってくる情報の少なさに驚く始末だ。自分から掴みにいってないのがよく分かる。  みんなの輪に入ることが得意じゃないので、どう避けようかと画策するばかりで、どう入ろうかとは考えない。  こんなだから職場でのランチタイムは孤高を気取るしかなく、足早にひとり外へと出ていくのだった。  だからといって職場近隣は同僚たちと顔を合わしてしまうので、少し離れたところを狙うしかないのだ。  おかげさまで私はいつも時間に余裕がなく疲れている。お昼ゴハンのあとは昼寝なんてとんでもない、早々に帰らねば午後の始業に間に合わない。  喫茶『プテラーノ』は職場から少し離れているので、昼休憩としては圏外なのだが、そこは私の体力でカバー。走ったって大丈夫。やわな私ではないのだ。 ──いざ入店。  かすかな緊張感と淡い高揚感。  ややこぶりな店内は、さすがにランチタイムだけあって多くのお客さんで賑わっていた。店長と思しき男性が忙しそうに駆け回っている。彼とお客さんの会話からえた情報としては、アルバイトの男の子が怪我で入院してしまったために、まさかのワンオペだそうだ。  運良く空いていたカウンター席にひとり座りメニュー表を開く。  しかし気づくと、ワンオペをこなしている店長らしき人物に目がいってしまう。忙しさに追われる中でも、料理や応対には手を抜かず、笑顔も忘れない彼がとても眩しかった。 「すみません、Aランチひとつ」  鶏ささみとクリーミーソース味のパスタ&サラダ。 ──美味しい。 「あの、店長さん? エプロンありますか?」  私は思わず彼の背中に声をかけていた。驚き目を丸くした彼は「え? ああ、その裏の所に」と説明しようとしたが、そこまで聞いた私はもう動き出していた。  そしてすぐにスマホを取り出し画面をタップ。 『もしもし、課長。体調不良をおこしました。今日は半休でお願いします』
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