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ああ、そうか。
この国では、金髪で緑の目を持つ自分のほうが珍獣のようなものなのか。
この国で、どうやって生きていけばいいのか。
船中の不安が現実のものになったことを悟り、気持ちは暗く沈んでゆく一方だった。
「少し、ここで待っていなさい。出迎えの者を探してくるから」
伯爵にそう言われ、桟橋の係船柱に座って待っていた。
強い風が吹きつけたと思ったら、目の前に小さな帽子が転がってきた。
黒いリボンのついた、女の子用の小さな麦わら帽だ。
天音は思わず立ちあがり、少し追いかけて拾い上げた。
そのとき、向こうから幼い少女が弾むように駆けてきた。
「それ、わたしの」と言いかけて、彼女は、はっと口を噤んだ。
言葉が通じないと思ったのだろう。
「どうぞ」
天音は帽子を手渡した。
すると、少女はくりっとした黒い目を真ん丸に見開き、可愛らしい小さな口を大きく開けた。
「え、あなた日本語、できるの」
「す、少しだけ」
彼女の顔に笑みが浮かんだ。
ああ、なんて、愛らしいんだろう。
その笑顔は、それまで暗雲のように垂れこめていた愁いを一瞬忘れさせた。
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