第一章 樹下の接吻

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 ああ、そうか。  この国では、金髪で緑の目を持つ自分のほうが珍獣のようなものなのか。  この国で、どうやって生きていけばいいのか。  船中の不安が現実のものになったことを悟り、気持ちは暗く沈んでゆく一方だった。 「少し、ここで待っていなさい。出迎えの者を探してくるから」  伯爵にそう言われ、桟橋の係船柱に座って待っていた。  強い風が吹きつけたと思ったら、目の前に小さな帽子が転がってきた。  黒いリボンのついた、女の子用の小さな麦わら帽だ。  天音は思わず立ちあがり、少し追いかけて拾い上げた。  そのとき、向こうから幼い少女が弾むように駆けてきた。 「それ、わたしの」と言いかけて、彼女は、はっと口を(つぐ)んだ。  言葉が通じないと思ったのだろう。 「どうぞ」  天音は帽子を手渡した。  すると、少女はくりっとした黒い目を真ん丸に見開き、可愛らしい小さな口を大きく開けた。 「え、あなた日本語、できるの」 「す、少しだけ」  彼女の顔に笑みが浮かんだ。  ああ、なんて、愛らしいんだろう。  その笑顔は、それまで暗雲のように垂れこめていた(うれ)いを一瞬忘れさせた。  
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