287人が本棚に入れています
本棚に追加
/136ページ
それに彼女は、とても自然に日本人と違う容貌の自分を受け入れてくれた。
そのときの天音には、それが何よりの救いとなった。
「おお桜子、迎えに来てくれたのか」
「お父様ぁ」
彼女は吉田伯爵に飛びついた。
伯爵は桜子を抱き上げると、その柔らかそうな頬にキスした。
くすぐったそうに身をよじりながら、彼女は一生懸命、伯爵に話しかけた。
「あの子が桜子のお帽子を拾ってくれたの」
伯爵は、彼女を地面にそっと下ろし、言った。
「天音だよ。英国から連れてきた。屋敷で働いてもらうんだ」
彼女はぱっと顔を輝かせた。
「お父様、桜子に王子様を連れてきてくれたの? わたし、王子様とお友達になれるの?」
「ははっ、残念ながらお友達にはなれんな」
「どうして?」
「桜子にふさわしい王子様は、お前が結婚する年になったら、わしが連れてきてやるから心配いらんよ」
彼女は小さな頭を左右に思い切り振った。
「いや! 桜子、この王子様がいい」
そう言って、桜子は天音の腕を掴んで、にっこり笑った。
最初のコメントを投稿しよう!