魂生贄村

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「僕は君と出会えて本当に幸せだったよ。真紀、ありがとう」 私の夫の哲也はガンを患い、残りわずかな命だと宣告されている。 私は哲也と結婚した時からずっと哲也に尽くしてきた。 私たちには子どもが出来なかった。もし子どもがいたら、こんな事は考えなかったかもしれない。 私は、哲也からのモラハラにずっと苦しんできた。 でも、哲也は自分がモラハラをしているという自覚は微塵もない。だから、私が哲也を憎んでいるなんて思いもせずに、感謝の言葉が言えるのだ。 最後の最後まで良い妻でいるには、哲也への恨みが強すぎる。 哲也が優しい人なら、このまま逝かせてあげたのに……。 だって、あなたは私を『呪いの村』から救い出してくれた人だったから。 私の村が『呪いの村』と言われている事を知ったのは、私が17才の時。両親が教えてくれた。 村人は、村の守り神の蛇様に生贄の魂を捧げたら、蛇様から永遠の命を与えてもらえるそうだ。確かに、両親はずっと若いままだ。 私はその話を聞いて、怖くなって村を飛び出した。森の中を何日も何も食べずにさまよっていた時に、哲也に助けられた。 あれから、50年。 私は哲也の耳元で小声で「魂生贄村」と言った。 すると哲也は「魂生贄村?」と聞き返してきた。 その途端、哲也の意識が失くなった。 呪いの村の名前を口にしてはいけない。口にすると、口にした人の魂が蛇様の元に飛んでいくから。 「ふふふっ、今まであなたに尽くしてきた代わりに永遠の命をもらうわね」 私の身体が徐々に若返っていく。 蛇様は生贄の魂を食べる。魂を半分食べて、半年後、魂が元の形に戻った時に、また半分食べる。 生贄の魂は永遠に蛇様に食べられ続け、天国にも地獄にもいけないのだ。 私が哲也に尽くしたのはたった50年。だけど、哲也の魂は永遠に蛇様の生贄として生き続ける。   私は若くて美しい自分の姿を鏡で確認した。すると、心が晴れ晴れとしてきた。 【完】
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