侍女ハルラールはセコムと結婚したい

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侍女ハルラールはセコムと結婚したい

「サヴィトリ様、時代はATMではなくセコムだと思うんです」  私は無礼を承知で、ばんっと両手で机を叩きました。机に積まれていた冊子がどさどさと雪崩のように落ちていきます。どうせあとで捨てるゴミなので気にしません。  目の前にいるのは私がお仕えするクベラ国の若き女王、サヴィトリ様です。正式にはクベラ国の王の称号である「タイクーン」とお呼びしなければならないのですが、それはこの際置いておきましょう。 「……えーてぃーえむとせこむって何?」 「ATMはとにかく黙って金だけ払ってくれる男性のことです。由来はよくわかりません。雑誌に載っていたのを見ただけなので。  セコムはあらゆる難事から守ってくれる素晴らしい男性のことです。こちらも雑誌で見ただけなので由来はよくわかりません。あ、サヴィトリ様もお読みになります? ファッション中心の物やコスメに力を入れている物とか恋愛系とか色々ありますよ」 「ハルが何言ってるか全然わからないよ……」  サヴィトリ様は頭を抱えてしまわれました。  私は落ちずに机に残っていた冊子を一つ持ち上げます。 「ATMとは違いますが、こういった金に物を言わせて顔や経歴を盛った身上書(見合い写真)を一方的に送りつけてくる輩は相手にする価値なし、ってことです」  冊子の中には二次元でしか存在し得ない造形の男性の肖像画が貼られていました。  その隣には難解な家系図が描かれています。とある王家のいとこの孫の兄弟の姪の結婚相手のはとこの息子の養子、とかそんな感じです。
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