376人が本棚に入れています
本棚に追加
/136ページ
これは本物の気持ちです!
城の広々とした庭の近くに、そのテラスはあった。
暖かい日差しが差し込み、庭の花が揺れる。
なんてのどかな瞬間だろう。
テーブルの上には軽食が並んでいる。
どれも色とりどりで美味しそう。
本当にエブリンさん達とランチなんていいのかな?
「レティシア、やっと見つけた」
「あ、ノア」
ノア、リアムさん、カミラが駆けてきた。
ちょっと息が乱れているから、走ってきたのかな。別に走らなくても良かったのに。
「エブリン。勝手な行動は慎めと何回言ったらわかるんだ。レティシアさんも困ってしまうだろう」
リアムさんが呆れて言った。
確かにエブリンさんは自由気ままだ。
何にでもすぐに興味をもつ子供みたいに、純粋な心の持ち主なんだろうな。
「ごめんね。レティシアちゃんといるのが楽しくて……。迷惑かけたならごめんなさいね」
「いえ、そんなことないです!迷惑だなんて思ってないですから!」
「そう……?それなら良いんだけど」
エブリンさんはリアムさんからのお説教が苦手みたい。
リアムさんが注意すると、必ずちょっと悲しそうな顔をするもん。
リアムさんが好きだから、叱られるのが苦手なんだと思う。
「レティシア、こっちに座って。軽食しか用意できなかったけど」
「ううん、すごく綺麗で美味しそうだよ」
ノアの隣に座りながら言うと、私の向かいに座ったエブリンさんが上品な笑みを浮かべた。
「レティシアちゃん。ノアと婚約してくれてありがとう。ノアとレティシアちゃんの幸せを願ってかんぱーい!」
「「「かんぱーい!」」」
それぞれの飲み物が入ったグラスの氷が、カランッと涼しげな音を立てた。
サンドイッチやキッシュが並び、まるでおとぎ話の世界みたいに優雅な時間。
私はノアが取ってくれたキッシュを一口食べた。
優しい味が口の中に広がって、とっても美味しい。
「わあ、美味しい……」
「そう?良かったわ」
エブリンさんがニコニコしながらサンドイッチを頬張っている。
さっきのしょんぼりした表情は消えて、目の前のことに夢中になる。やっぱりエブリンさんは純粋な人だ。
「そうだ、レティシアさん」
「はい?」
「ノアから少し聞いたんだが、エディタ国では辛い生活を送ったんだって?もっと詳しく聞かせてくれないか?」
「え……」
次々と記憶が蘇ってくる。
私が頑張った結果なのに、アリスに手柄を横取りされた日。病気で苦しんでいるのに、私に「大丈夫?」の一言もかけてもらえなかった日。空気のように扱われ、時々バカにされながら生きた日々。
止めたくても止められない、嫌な思い出が蘇ってくる。
アールに裏切られたあの日も。
私は何もできなくて。
視界が歪む。
涙なんて見せられなくて、咄嗟に俯く。
もう乗り越えたと思ってたのに。
やっぱり私は弱いままだ。
まだまだ未熟な、鳥の雛。
もっともっと遠くへ飛び立つためには、どうすればいいの?
最初のコメントを投稿しよう!