⑪13番目の呪われ姫は運命と出会う。

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 王宮の外れにひっそりと存在する、打ち捨てられたかのようなボロボロの離宮。  そこに躊躇いなく勢いよく飛び込んだ1人の青年、キース・ストラル伯爵は、 「姫、匿ってください!」  切羽詰まった声でこの離宮の主人に向かってそう言った。 「まぁ、伯爵が慌てるなんて珍しい。一体何から逃げているのですか?」  いいなー鬼ごっこ私も混ざりたいと呑気にそう笑った彼女の名前はベロニカ・スタンフォード。この国の13番目の王女様である。 「権力」  いつも通りの無愛想な表情で端的に伯爵がそう言った瞬間、 「やぁキース。久しぶりに会ったと言うのにヒトの顔を見た瞬間逃走を図るなんて私は悲しいよ」  鮮やかな金糸の髪を無造作に一つに束ね、サファイアを思わせる碧眼で不敵に笑う青年が伯爵を追って離宮内に乗り込んで来た。 「うわぁ、こんなとこまで追って来やがった」  とても嫌そうな顔をして舌打ちした伯爵は頭を抱えながら、 「姫、ここのセキュリティどうなっているんですか?」  とベロニカに文句を言う。 「セキュリティと言われましても、見ての通り私の離宮には侍女はおろか護衛の1人すらおりませんので」  セキュリティも何もありませんけど? 何なら暗殺者送り込み放題! となぜかドヤ顔で胸を張るベロニカ。  そうここは彼女、つまり"呪われ姫"を"暗殺するため"の離宮。 「王宮敷地内で私が立ち入れない場所はない、諦めろキース」 「っち、急にふらっと帰って来るなよ」  得意げな顔をする青年に盛大に舌打ちした伯爵は、面倒くさいを全面に押し出して逃げそびれた現実を受け入れた。  どうやら話はまとまったようだとパチンと両手を叩いて楽しげに笑ったベロニカは、 「それにしても、今夜は賑やかですねぇ」  と猫のように大きな金の目で、伯爵を追って離宮に踏み込んで来た人物を物珍しげに眺める。 「今宵は王族自ら私の暗殺にでも来たのですか?」  暗殺者の概念が覆りそうですわと楽しげにそう述べたベロニカは、 「ご機嫌よう、7番目の王子様(お兄様)」  着用しているのがメイド服とはとても思えないほど優雅に、姫らしくカーテシーをしてみせた。  この国の王家は呪われている。 『天寿の命』  寿命以外では死ねなくなる呪い。  13番目に王の子として生まれてきてしまったためにそんな呪いにかかっているベロニカは、呪われ姫として陛下の命令で数多の暗殺者を差し向けられて常に命を狙われている。  だが、そこはさすが"呪われ姫"。  呪いの効果で、毒は砂糖水に、爆弾は綺麗な花火に早変わり。ベロニカに殺意は届かず、全く死ぬ気配がない。  そんなわけでベロニカは自分で雇った専属暗殺者(大好きな伯爵)とお茶会を開きつつ今日も元気に生きている。
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