人狼の村

23/26
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
「マックス、その鏡は本当に信じていいの? 神父様が人狼だなんて、そんなこと……」 もう一度マックスを見ると、その隣で、レジーさんが猟銃を構えた。その時はじめて、レジーさんが背中に猟銃をかついでいたことに気づいた。スローモーションのように妙にゆっくりした動きに見えたが、実際には一瞬の出来事だったのだろう。 乾いた銃声が響いた。 ふりかえると、ジョセフ神父が倒れている。地面に血が広がっていった。 「神父様!」 ぼくはすぐに、ジョセフ神父の異変に気付いた。顔と手が、黒い毛に覆われている。細くしなやかだった指は、太く、鋭い鉤爪があった。うつろな金色の目を大きく見開き、宙を見ている。妙に付き出して耳まで裂けた口が、わずかに動いた。 「セオ……かわいい……食べたい……」 夕べ耳元で聞いた声だった。 ジョセフ神父の体が、痙攣しながら徐々に肥大化し、やぶれた法衣の下から、黒い毛皮の体が現れた。そこに横たわっていたのは、いびつで巨大な狼だった。 その日、教会の地下を捜索すると、ジョセフ神父のものと思われる人骨がみつかった。おそらく、彼が最初の犠牲者だったのだ。 ぼくが慕ったジョセフ神父は、人狼だった。本物のジョセフ神父を最後に見たのは、いつだったのだろう。どのような気持ちで、どの彼を思い出せばよいのだろう。悲しくても、涙を流すことすらできなかった。どこに怒りを向ければいいのかも分からない。恐ろしい人狼の姿を思い浮かべても、それはすぐに、優しいジョセフ神父の笑顔に変わってしまうのだ。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!