【一】シナゴの話

1/3
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/76ページ

【一】シナゴの話

 それは、世界規模のパンデミックとして始まった。  ――なんとなく、肩が重い。  ――なんとなく、頭が重い。  ――なんとなく、腰が痛い。  その後、共通項として、痔のような症状を呈した。そして急激な発熱を経る。最初が軽微な、いいや人により重篤ではあるのだが、いわゆる気圧の変化が原因では無いのかとして見逃され書けたのだが、痔類似症状と発熱という特有の経過を経るため、その病いは、病いとして認定された。しかしながら原因となるウイルスなどが見つからないまま、早二年。ある日、地球文明人類は、人工衛星で、その存在を捕そくした。  木星の衛星付近から、月などを経由して、地球上に何がが降ってくる。  そしてその物体からは、何かがまき散らされている。  最初に採取された、その『粉』を解析し、実験動物に摂取させた結果、まさしく、その当時『rhume chronique de type anal』こと日本語名称『肛門型慢性風邪』の原因が判明した。黒いウニョウニョした巨体には、眼球型の部位と触手が何本もついている。それからまき散らされる粉が疾患の原因だと判明した。  人類は対応に追われた。特にそれらを発見した欧州が主導し、対策のための様々な医薬品――そして、降ってくる謎のいかにも知的生命体風の物体に対しての兵器開発もなされた。そうして生み出されたのが、バトルスーツである。  しかしながらこのバトルスーツ、操作するには、人間の創造性に関わるある脳の分野が一定以上活性している者でなければ、動かすことができなかった。理由は、想像力を駆使し、想像したとおりの行動で攻撃を行うからである。たとえば、『砕けろ』と念じて、それを上手く想像し、現実にそれが行われているイメージを構築できる者でなければ、使用できなかったのである。これは元を正せば、連綿と連なる魔術の視覚化の技法なのだが、詳しいことは割愛する。  そこで適性がある者を調査するためのテストが開発された。  そして全世界で一斉検査が行われた。  ここまでは、ニュースでも繰り返し報道している、一般常識である。  かくいう私も、そのテストを受けた一人だ。
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!