シリウスを探して

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シリウスを探して

「そろそろ……聞きたいんだけど」 渓が教室のドアを開けようとしたとき。 吉岡がそう言って、左腕を伸ばして進行をふさいだ。 何を…? なんて、野暮なことは聞かない。 告白の…返事だ。 あれから1ヶ月…。 どうしようどうしよう、と考えているうちに…時間だけが経ってしまった。 「それとも、怒ってる?」 「え?」 「……キスしたこと」 キス…。あの頬にされたキスのこと…かな。 何が起きたかわからなかったし、嫌ではなかったから……。 渓は勢いよく、首を横に振る。 「よかった。調子にのって……嫌われたかと思った」 「……そんな」 (嫌うだなんて……) 「でもあのときは…。鎌田が可愛すぎたのが悪いんだからな」 吉岡が目をそらしながら言う。 「え?」 「見つめてきただろ。思わず…。はー、がっつき過ぎ!カッコ悪!何言ってんだろ、俺」 吉岡が頭を下げて、ため息をつく。 「……」  教室の中から、 「なーに、朝からイチャついてんだよ」 「鎌田サン、こいつの世話大変だろ? なんたって下半身が野獣……」  「渡邉、てめー!!」 吉岡が冗談ぽく殴りかかる。 じゃれ合い始めた男子たちを、渓はポカンとして見つめる。 その脇を女子たちがジロジロと眺めて、通っていった。 中には渓を睨みつけるような、敵意まるだしの子もいて。  ランチのとき、その話をすると。 「そりゃそうよ。だって吉岡と付き合ってるんだから」 菜月に言われて。 渓は「はあ?」と野太い声で聞き返した。 「4組でも噂になってるよ」 「吉岡に憧れてた子たちは、ちょっとブルー入ってるよね」 「そんなんじゃないから!」 「またまたぁ」 「ね、深雪。吉岡からなんか聞いてないの?」 「吉岡はずっと渓のことが好きだったみたいだね」 「「やっぱりぃー」」 菜月と心咲が声をそろえる。 深雪まで。 振り向いて顔を見ると、深雪はニコッとした。屈託ない笑顔だ。 「付き合っちゃいなよ」 「昔、年上の彼女がいたとか噂あったけど」 「ばかっ。シー!」 …吉岡くんにもいたんだ。彼女。 「でも優良物件だと思うなぁ。サッカー上手いし、顔と頭は良いし、まあ性格もね」 「悪くはない、むしろ良いほうだよね。リーダーシップもあるし」 「渓が彼女なら、許せる気がするわ。浮わつかないで、しっかり彼女の役目を果たしそうだし。須藤環菜よりも断然いいし!」 「って、あの子、まだ学校来てないんだね…」 須藤環菜の机を眺め見ると、 うっすらホコリがかぶっている。 文化祭の後、突然来なくなり休学状態になっている。 姉の瑛茉は普通に学校に来ているが、山セン山センと騒がなくなり、天文部も高3で実質引退したようだ。 (場合によっては被害届出そうと思っていたのに) 日々、怒りや恐れが薄らいできているのを感じる。 だったらもうこの際、学校に来なくていいのに…。 渓は頬づえをついて、環菜の机を見やった。 「そんなことよりも!」 「どうするの、渓!」 自分に話の矛先が変わり、渓は困ったように、「ええ…と」と小さい声でつぶやいた。
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