シリウスを追いかけて

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(はあ、どうしよう) 渓が校庭を見ると、吉岡がサッカーに興じる姿があった。 (本当に…サッカーが好きなんだね) 吉岡くんという太陽を中心にして、たくさんの惑星がまわっているみたいだ。 私もそのなかの一部になれる…のかな? (私のどこを好きになってくれたのかわからないけれど、早く返事しないと……悪いな。 それもこれも…私がまだ山センを忘れられないから……ダメなんだ) …そう。渓はまだ自分の気持ちにケリをつけられないでいた。 この間のランチのとき。 山センの口の周りが切れてたのを目撃した子がいる、という話になった。 (それでマスクしてたんだ。誰かとのキスで傷がついた、とかじゃないよね) と心の中でハラハラしている渓とは違い、 菜月は喧嘩でもしたんじゃないの、と冗談ぽく笑う。 その瞬間、深雪がピクッと動いた。 (……まさか…体育館倉庫の事件で、私を助けてくれてくれたのは山センだったり…する?) なんて、渓は期待をしてしまう。 そんなわけないのに…。 実際に助けてくれた吉岡くんにも、失礼だ。 渓は頭をブンブンと振る。 こんなときに。まだ…山センに気持ちが残っていることを実感するのだ…。 今はもう、山センとは数学の授業でしか、つながりがもてなくなって…。 ただの生徒の1人…になってしまった。 恒例だった授業後の質疑応答も、次の授業の準備があるからということで、中休みか昼休みに職員室に来るように、と言われて。 授業の内容の質疑応答だけでなく、ただおしゃべりに行くだけの生徒もいるらしい。 人気者の山瀬先生。 渓だって本当は行きたい…でもどんな顔をして行ったらいいかわからない…。 (…あーあ、告白なんかしなきゃ良かった) 軽口を叩きあえる、あのままの関係性で良かったな。 …もっと話がしたい。 …もっともっと、そばにいたい。 渓は深いため息をついた。 図書室で勉強を終えて、裏門に行くと、シルバーの軽自動車が止まっていた。 中にいる華絵が合図する。 仕事終わりに迎えにきてくれたのだ。 夜は危ないから、とバイトは土曜日の夕方までのみ!と、無理やり変更させられたりもした。 ちょっと過保護すぎて息がつまるくらいだけど、渓のことを心配してくれているらしい。 「遅くなってごめんなぁ。帰り間際に、急きょ稟議書が回ってきちゃって」 「別にいいよ」と言って渓は助手席に乗り込む。 ミツハシ四国支店の総務係長として、バリバリ働いている華絵は、何かとストレスがたまっているらしく仕事の愚痴が多い。 渓は「フーン」「へー」と、いつのまにか聞き役になっている。 華絵は言うとスッキリするタイプなのか、すぐカラッと気分が変わり、いつもの明るい性格になる。 そして、家族の話題が始まった。 「澪さ。最近、ぽやーんとしてない?」 「いつものことだよね?」 「まあ、そうなんだけど。なんだかちょっとおかしいよ。パティスリーアサダで何かあったんじゃないかね…」 なんて会話をしていると。 車内でかけていたラジオから、あるニュースが流れてきた。
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