第0章 序章。

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第0章 序章。

思えば後漢帝国が衰退し世に黄巾賊が誕生したあの日から長きに渡り戦乱の世は今でも続いております。 曹叡「戦乱が続くなら裏切りも続く。何故ならば2つは表裏一体だから…」 そう言えば… 曹叡『戦乱続く世において裏切りとは日常茶飯事だと口にしていたのは… 一体誰だっただろうか?』 曹叡は思いを巡らせたものの 強い違和感を覚えました…。 と、言うことは… 曹丕『戦乱続く世において 裏切りとは日常茶飯事だ』 そんな事を口にしていたのは、 曹叡にとって書類上の父親であるものの憎しみの対象でもある男でした。 曹叡が曹丕の夢を見て苦しみながら 浅い眠りに就いていた西暦239年01月21日の早朝の事にはなりますが… 曹叡「…身体に力が入らぬ…」 曹叡は突然身体に力を入れる事が 出来なくなりました。 なので… 手元にある鈴を軽く鳴らし… 誰かを呼ぶ事にしました。  すると… 鈴の音に気づいた郭累…字は夜鈴(イーリン)が曹叡の元へと 駆けつけました…。 郭累「陛下、如何なさいました?」 郭累(かくるい)は曹叡にとって 2番目の皇后となる人物で… 先帝である曹丕が寵愛していた郭鑾(かくらん)…字は女王とは残念ながら姓を同じくするものの血の繋がりなどはありませんでした。 曹叡「朝早いが夏侯家の屋敷にいるあの2人を…万姫(ワンチェン)と仲権を呼んでは貰えぬか?朕の命ある内に2人と会いたいのだ…」 ちなみに… 万姫(ワンチェン)とは…曹叡を裏切り続けた曹丕と曹叡をこの世に産んだ甄貴…字は桜綾(ヨウリン)との間に産まれた曹鷲の字になります。 書類上では曹丕の嫡男に当たる曹叡の妹になりますが血縁上では異父妹。 但し… お腹にいる時に甄貴が曹丕の正妻になった事もあり書類上は曹丕の嫡男であるためその辺りの事実は伏せられている事もあり口にはできません…。 仲権(ちゅうけん)とは…夏侯淵…字は妙才にとって次男ではあるものの性格などが1番父親に似ていると噂になる程似ている夏侯覇の字になります。 郭累「まだ早朝ではありますが 雹華に聞くだけ聞いてはみます…。 ただ…そのような悲しき御言葉を口にしてはなりませぬ…」 郭累は曹叡を窘めるように優しく諭した後、軽く頭を下げて官女である雹華(ヒョウカ)の元へと向かいました。 雹華「皇后様、 まだ早朝にございますよ?」 雹華(ヒョウカ)…曹休…字は文烈の娘だからこそ馬の扱いが武将並に上手いのだが官女であるため普段は馬に乗る機会など全くありません…。 郭累「ごめんなさいね、ただ…陛下の願いだけは出来る限り叶えて差し上げたいのよ…」 雹華は郭累の言葉を聞くと、 悲しげな顔をしていました。 雹華「皇后様がそのように仰せとはつまり…もう陛下の命は長くないという事かしら…?」 郭累はその問いには俯いたまま 何も答えませんでした。 雹華「ならば…仕度をして急ぎ 夏侯家の屋敷へと向かいますわ…」 官女である雹華ではありますが… 前述した通り今は亡き曹休…字は文烈の娘であるので馬の手綱を握るのは…お手の物でした。 雹華「父上が誰より慕っていた先帝と初代の皇后様のすれ違いにより悲しく歪んだ陛下の人生…その中で…」 曹叡が誰よりも愛情を注ぎ、 誰よりもその幸せを願っているのは… 曹鷲「雹華、どうしたの?」 曹鷲…字は万姫(ワンチェン)でした それと… 夏侯覇「ちょいちょい…今何時よ? 眠くて仕方ないんだけど…雹華…。 それと気になっていたんだけど… 曹家の娘ってやっぱりじゃじゃ馬が 多いの?」 夏侯淵…字は妙才の次男ではあり血縁的には何も問題はないものの… 曹休の娘である雹華と曹丕の娘である曹鷲の事をマジマジと見つめながら そんな失礼な事を口にするような非礼なところも兼ね揃えている曹叡にとっては少々困った妹婿になります。 しかし… 夏侯覇「もしかして陛下の御身に何かあったのか?」 勘は鋭く加えて曹鷲の家族を自分の家族同然と思う心の広さもそれなりにあります…。   雹華は夏侯覇からの問い掛けに対して 素直に曹叡の状態を口にしました。 雹華「朝早くから申し訳ありませぬ… 実は…陛下が危篤状態でお2人にお逢いしたいと強く願われています。」 曹鷲にとって唯一愛して貰った肉親で 曹鷲と夏侯覇を添い遂げさせるために 帝位に就いたくらい曹鷲の事を大切に思っている曹叡が危篤状態になっているのに… 曹鷲「可愛い嫁の事をじゃじゃ馬だなんて言う仲権様なんかと遊んでいる暇など今はないわ。」 どうやら曹鷲はじゃじゃ馬と言われた事がかなりショックだったようで父親譲りの嫌味を口にしました。 夏侯覇「そうだな…って 遊んでないからな…俺は決して…。 それに…先帝そっくりな嫌味口撃は止めてくれないか?凹むから…。」 曹鷲と雹華から冷たい対応をされ… 落ち込んでいる夏侯覇はさておき… 曹鷲「ブツブツ言ってないで 早く乗って下さいな…仲権様。」 曹鷲は兄である曹叡の容態だけが 気掛かりでございました…。 夏侯覇「はいはい…乗りますよ。 陛下の妹君は基本的に…」 夏侯覇は極めて不機嫌そうにしていますがあまり否定的な言葉を口にすると妻のご機嫌が極めて悪くなるので… 基本的に…だけで 言葉を止める事にしました。 後に続く言葉はもちろんわがままだな…ですが基本的に…だけだとぼかす雰囲気があるので大丈夫だとは思いましたが… 雹華「文句を言ってないで 急いで下さい、仲権様。」 雹華から急かされてしまった 夏侯覇は慌てて馬車に乗りました。 ちなみに… 曹操の父親である曹嵩は 夏侯家から曹家に養子として迎え入れられているため… この3人は親戚関係な事もあり 1度話しだすと話が止まらず… 雹華「急がないとまた 皇后様に叱られてしまいますわ…」 何度も郭累から… 郭累「仲が良いのは結構だけど… あなた達はお喋りが…長いわよ…」 このようなお叱りを 受けてしまうのでした。 それと… 曹鷲「兄上様がお待ちになられているのだから急がなくちゃならない事を今になって気づきました…」 今更ではあるものの… 病の床に臥せっている曹叡の事に気づきました…。   雹華「また叱られてしまいます。 慌てて急いで行きますよ…!」 夏侯覇「ちょいちょい…雹華。 慌てると急ぐは同じ意味だよ…」 雹華「仲権様、何でも良いので 早く馬車へお乗り下さい…」 こうして夏侯覇と曹鷲の乗った車を 雹華の愛馬が引く形をとると… 一行は曹叡の待つ蒼穹之宮へと 急ぎ向かう事にしました。 すると… 郭累「雹華、ありがとう。 ご苦労様でした。」 2人目の皇后である郭累…字は夜鈴が門の前で皆を待っておりました。 雹華「皇后様、 有難き御言葉にございます。では、 車をいつもの馬車へ戻しますね…」 郭累「お願いしますね、雹華。」 そして…夏侯覇と曹鷲の夫婦は、 雹華が車をいつもの場所へと戻している間に曹叡の元へ向かう事にしました   曹鷲「兄上様…陛下は…」 正式には〈異父兄〉ではありますが、 曹叡は書類上では曹丕と甄貴の子ですので兄上と呼ばなければならないのでございます。 郭累「御案内致します。」 2人の前を導くように歩く郭累は、 郭累「陛下はお2人も御存知の通り、悲しい人生を過ごして来られました。だからこそ私は最期まで陛下に寄り添っていたいのでございます…。とは言え早朝にも関わらずお2人を呼び出してしまった事に関しては大変申し訳なく思ってはおります…。」 すると… 夏侯覇「俺達が所帯を持つ事が出来たのは…陛下のおかげだからなぁ、御礼を申し上げたいと常日頃より思っていたんだ…」 夏侯覇は感極まったかのように 独り言を話し始めました。 曹鷲「仲権様は長い独り言が… いつまでもかかりそうなので 放っておきますね?」 じゃじゃ馬だと呼ばれた仕返しも兼ねて夏侯覇は曹鷲から置き去りにされてしまいました。 しかし…  そこは夏侯淵の息子であるだけの事はありすぐに追いつきました。 夏侯覇「俺を 置き去りにしないでくれ!」 夏侯覇が早くに起こされた事と置き去りにされた事に関して文句を口にしていると…郭累はある居室の前で急に止まりました。 そこは… 〈蒼穹の間〉と書かれた札の掛けられた極めて豪奢な居室でした。 郭累「…夜鈴でございます、仲権様と万姫様をお呼びして参りました。」 居室の前で声を掛けると… 居室の中から曹叡の… 曹叡「…入るが良い。」 か細い声が聞こえて参りました。 曹鷲は曹叡の声が以前とは比べものにならないくらいか細くなっている事に極めて動揺をしていました。 曹鷲「兄上様、いえ…陛下は…」 郭累「危篤状態ですからか細いお声になられるのは…仕方ありませんわ…」 郭累から曹叡の症状を聞いたものの 曹鷲の脳裏には… 曹叡「仲権を好いているなら俺が… いいや…朕が何とかしてみせる…」 元気な頃の曹叡の姿が 今も鮮明に浮かんでいるため… 曹鷲「まさか…そんな…」 気持ちに整理がつかない様子でした。 そんな曹鷲の様子に気づいた夏侯覇は、 夏侯覇「見るまで納得出来ないんだろ?なら失礼するしか方法はないな…」 曹鷲が納得出来るように… 郭累に頭を下げてから 夏侯覇「失礼致します。」 ひと言断りを入れてから 蒼穹の間へ入りました…。 すると… 曹月鈴「仲権様、無礼ですわ。」 曹叡の貴妃であり位は昭華の曹月鈴が 夏侯覇に対して文句を言いました。 曹月鈴は曹休の娘で 雹華にとって双子の姉になります。 曹叡「月鈴、構わぬ。朕が入れと言ったのに2人を責めてはならぬ…」 曹月鈴が悲しげな顔をしながら 看病を続けておりますが寝台に横たわる曹叡は既に顔面蒼白状態でした。 曹鷲「兄上様、陛下!」 やはり激しく動揺しているためか 曹鷲の声は普通とされる音量より 極めて高く曹叡は両耳を押さえました 曹叡「万姫、落ち着いてはくれぬか? 朕の頭に響くのだ…」 しかし… 曹叡が35歳の若さで最期を迎えようとしている事はこの場にいた皆、何となくではありますが分かってはいたのですが次に皇帝となる人物はまだ幼すぎてこちらもまた動揺していました。 曹芳「…えっ?皇帝とは…まだ荷が…」 曹芳は曹月鈴と曹叡の間に産まれた嫡男ではあるもののまだ7歳である事もあり気持ちの整理が出来てませんでした…年齢的な事を踏まえると…当然と言われれば当然なのですが… 曹叡「司馬懿と曹爽に後の事は頼んでおいたら良いではないか…?仲権と万姫も夜鈴と芳の事を宜しく頼んだぞ…」 補佐として曹爽と司馬懿に曹芳の事を託そうと考えた曹叡でしたが司馬懿と曹爽は犬猿の仲と言わざるを得ない程仲が悪い事も分からなくなっていました…。 郭累「太子の人格形成に難があってはなりませんので…人選に関しては… 何とぞお気をつけて下さりませ…。」 曹芳を養子として迎えている郭累も そのように言わざるを得ないのですが その2人以外に曹家を支える人材など簡単には見つかりません…。 それ故… 曹叡「…仕方あるまい…。」 そんな言葉で簡単に納得など普通の状態なら出来ませんが危篤状態である曹叡に文句を言ってもそれこそ仕方ないと言うしかありませんでした…。 曹叡「35年の短き人生がもう終わろうとしているとは…早過ぎるものだな…今までの記憶が鮮明に脳裏を駆け巡っておるわ…」 曹叡が呟くよりも早く曹叡の脳裏は… 走馬灯を見せておりました。 曹叡「母上…」  
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