27.帰郷

1/4
48人が本棚に入れています
本棚に追加
/84ページ

27.帰郷

 レヴォルト家の長子である、クラレンスが屋敷に帰ってきた。  玄関先でその姿を認めた時、主人であるクライヴは思わず駆け寄り、その両肩を抱き、目に涙を浮かべた。  勢ぞろいした使用人たちも、一様に喜びの表情を浮かべ出迎える。彼が無事だった事もさることながら、この屋敷の次期主になることが明白だったからだ。クラレンスが継げば、この屋敷は安泰で。  皆が喜ぶのも自然な事だった。  ただ一人、浮かない顔をして兄の姿を見つめるヴァイスは、その中で浮いて見えた。  シーンはそんなヴァイスが気がかりではあったが、どうすることもできない。  彼の心の内は手に取る様に分かった。きっと不安と焦燥感と嫉妬と。すべてのマイナスの思いが渦巻いているに違いない。  しかし、同情はできなかった。  今の状況を生んだのはほかでもない、彼自身の行いによるものなのだから。  それに、全てをマイナスにとらえる気質を改めることもしてこなかった。幾らこちらが注意を促しても、聞く耳を持たなかったのだ。  もう少し、考え方を改めていたなら、シーンとて側にいて役に立ちたいと思ったことだろう。 「やあ、シーンも元気そうで良かった」  父親との対面を果たし、一通り挨拶を済ませると、クラレンスは使用人にも声をかけてきた。  父オスカーと話し終えた後、シーンにも目を向ける。  亜麻色の髪を揺らし、太陽のような明るい笑顔を向けてきた。快活な性格で、使用人たちにも寛大だ。彼なら誰もが安心してここへ残ろうと思えるだろう。  確かにこの屋敷の未来は安泰だった。 「おかげさまで。クラレンス様もご息災でなによりでした」  クラレンスは声を潜めると。 「…父から聞いたが、辞めるんだって?」 「はい。そのつもりです」 「なんだ。君がいるからこの屋敷も安泰だと思っていたのに…。残念だな。考えを変えるつもりは?」 「既に決めたことなので。私がいなくとも、代わりは幾らでもおります」  そう言って後方に控える後輩らに目を向けた。クラレンスは肩をすくめると。 「けれど、こう言っては失礼になるが、束にしないと君と同等にはならないだろうな…。まあ、もう少し、君が残ってくれる手だてを考えてみる」  そう言うと悪戯っぽく笑って肩に手を置いてから、他のものへと声を掛けていった。  ここへ残る。  いくらクラレンスが主になるとはいえ、やはりそれは辞退したかった。  ヴァイスとの関わりを絶ちたい、そう思っていたからだ。ここに残れば、どうしても繋がりが出来てしまう。  自分にとって何が大切なのかを考えれば、自然とその判断となった。  ヴァイスは自分と関わるもの全てを排除してきた。今までの行動からも、今回、ハイトとの仲も裂こうとやっきになるだろう。  どんな手に出るかわからない今、早くここを辞してヴァイスの前から去るのが賢明だった。ハイトを先に出すことは、既に父オスカーにも了承を得ている。  当のヴァイスは兄を待たずして屋敷の中へと戻って行った。その表情は何時にもまして陰鬱に見えた。
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!