ノロワレモノの隣村

1/1
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
 僕は、生まれながらにして呪われている。 「ノロワレモノ! うちの村に入ってくるな!」 「おぞましい化物め!」  隣村の連中に石を投げつけられる。  ノロワレモノとは僕たちのこと。  この『呪われた村』に生まれ、隣村の村人と異なる姿をした、僕たちのこと。  父が駆けつけて、隣村の連中に謝る。 「どうかお許しください!」と卑屈に頭を下げる。  僕は罰として蔵に閉じ込められた。 「なんで好き勝手言わせるんだよ! たしかに僕らはこの村に生まれて外見も化物だけど、悪いことはしてない!」 「おまえも大人になって『ホフリ』に参加すればわかる」  父が答え、重い扉が閉ざされる。  僕は自分の生まれを、それこそ呪った。  けれど、一冊の本を見つけた。  それは古い時代を描いた歴史の本。  頁をめくると、吐き気がするほどの衝撃を受けた。  蔵から出て父に本を見せる。 「他の子供らには内緒だぞ」  父はそう告げて、深夜に僕を『ホフリ』に連れていった。  それは新月の夜、村の最奥の場で行われる子供禁制の儀式。  そこにいたのは村の大人たちとーー 「ノロワレモノ! こっちに来るな!」  そして彼らに囚われた、僕に石を投げた隣村の一人――否、『一頭』。 「……本にあったとおりだ」  本には昔の『牧場』が載っていた。  人間と、家畜という人間に食われる動物が描かれていた。  その家畜は隣村――ヨウトン村の連中と、頭部が同じだった。  それの名前は、『豚』。 「『豚』が進化して、俺たち『人間』と同じように二足歩行して言葉を話すようになったそうだ」  従来の飼育方法ができなくなった、らしい。 「だからわざと傲慢な言動をとるよう育てて、解体する際に同情を覚えないようにしたんだ」  説明が終わると、父は大きな刃物を村人――豚へと振るった。 「下賤どもめ、呪われろ!」  豚が吠える。言葉が通じなかった時代の豚も、同じように人間を呪ったのだろうか?  けど僕はその新鮮な肉を食った。  こんなに美味いのなら、別にノロワレモノでもいいや。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!