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喧嘩にはルビーのゼリーをひと匙
喧嘩した。10回中9回はおれが悪いけど、今回ばかりは波鶴ちゃんが悪い。つーんと拗ねてやる。
拗ねたまま出社して、お昼ごろからちょっと拗ねすぎたかなって思い始めた。波鶴ちゃんが今日に限って駆除業務に駆り出されてたらどうしよう。おれのことが気がかりで注意散漫になって、そのせいで怪我でもしたらどうしよう。危険な仕事なんだから、波鶴ちゃんを不安にさせたまま家を出ちゃだめなのに……!
連絡するけど返信はない。波鶴ちゃんはスマホ見られない職場なんだから、って落ち着こうとするけど。
今までにもらったメッセージをぼんやりと遡って、好きだなって。ちゃんと謝ってくれたしな。おれちょっと根に持ちすぎたな。早く帰ろう。好物を作って待っててあげよう。ごめんねって、言おう。
17時きっかりに返信が来た。
「定時で上がるから、好きなものを作っておこう」
同じこと、考えてる。うれしい。一緒に夕ごはん作ろう。
……って思ったけど残業がキツくて遅くなりました。怒らせちゃうかな〜……。連絡はしたけど。そろりと玄関を開ける。
「おかえり」
ハグ待ちで手を伸ばして、玄関で待っててくれたの? どんだけかわいいの? 小柄な愛しい旦那さまをぎゅーって。葉介、苦しい。って怒られるまで抱きしめる。
夕ごはんはいつもの波鶴ちゃんの味付け。デザートに、って出てきたのがすごかった。
脚付きのお皿にふるふると震える、透き通った赤いゼリー。食紅の赤じゃない。ルビーの色味をした視覚だけで涼しいゼリーは、喫茶店のショーウィンドウに飾られていそうなレトロな形。おじさん、ときめき……。
「作ってくれたのー!? 何ゼリー?」
「アセロラだ。お詫びに」
「めっちゃ好き! 波鶴ちゃんも、アセロラもめっちゃ好き!!」
「だろうと思ってな」
好き。とっくに許してるけど、「許してあげる」って言わないと一緒に食べてくれないから言った。一つしか作らなかったって。あーん待ちなの? はい、あーん。
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