赤い愛は鼓動する

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 新婚の先生が最後の試験の担当だった。無事試験が終わった後、挨拶をすると先生の紫色の中に、かすかな緑色が見えることに気づく。それは全く光を放っていなかった。愛されているとかいないとかではなく、まだ誰にも存在を知られていないような暗さだった。  合格が決まり後は帰るだけとなった時、気が抜けて唐突に頭に浮かんだことがある。魂の色が二つある人は皆女性だった。よく見た場所は、総合病院の待合室。俺の中に一つの仮説が浮かぶ。 「凪君、早くおいでよ」  水着の上にぶかぶかのTシャツを着た美冬に呼ばれ我に返る。帰りの夜行バスが来るまで近くの川で遊ぶことになっていた。  川の水は夏だと言うのに大分冷たい。しかし、物ともせずみんなではしゃぎ回った。美冬も河原を走り回り、川に入ってみんなと水をかけあった。楽しそうにしていたが、心配になって声をかける。 「あんまり激しい運動したり、体冷やしたりしない方がいいんじゃ……」 「心配してくれてありがとう。凪君は優しいね」  美冬が笑った。これ以上言えなかった。みんなの前で、「妊娠してるんだろ」ということは配慮が無いように感じたから。  魂の色は一人に一つ。体内に二人分の魂を持つということは妊婦だということ。生魚が食べられないというのもそういうことなのだろう。まだ妊娠に気づいていない先生と違って美冬は既にお腹の子を愛している。胎児自身がそのことを認識できるほどに。普通の人が何年も生きて多くの人から受ける愛と同じだけの愛を既にその子は受け止めている。だから、何かあったらきっと美冬は後悔する。  たとえ他の男との子供でも美冬の子には無事に生まれてほしい。しかし、不器用な俺には帰りのバスでブランケットを貸してあげることしかできなかった。  美冬が寝た後、涙が溢れた。俺は気づかないうちに美冬に恋をしていた。気づいた瞬間、失恋した。
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