夏の地獄

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 そのとき、俺はあることに気がついた。 『……気持ち、わるっ』  俺はこの言葉を、何百回、何万回、もしかしたら何百万回と発していた。俺はそう呟く自分の声を、数え切れないほど聞いていた。 「…………」  俺は改めて顔を上げ、あたりを眺める。  何の変哲もない、いつものバス停の光景だ。バス停には申し訳程度の屋根が取り付けられているが、斜めに照らす午後の日差しを避けることはできない。その他に夏の厳しい日差しを遮る物もなく、歩道のコンクリートの白からの照り返しと、車道のコンクリートの黒に蓄熱された赤外線が足下からも刺してくる。  辺りには畑が広がっているが、農作業する人の姿は見当たらない。車は絶えず通り過ぎていくものの、暑すぎるのか、歩行者の姿すら、たった今は見当たらない。  そんないつものバス停の光景だ。ただ一つ違っているのは、こんな早くに、容赦ない太陽が照りつける時間に俺が帰路についていることはめったにないことぐらいだった。  だが、そのいつも、とは、いったいいつのことだったのだろうか。  気がついた時には、俺は数限りなく、この瞬間を繰り返していた。  何百回。何千回。何億回。
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