11.

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「僕は……もう妻以上に愛せる女性(ひと)はいないと思ってる」 「うん」 「彼女を、忘れたくない……」 谷口はぎゅっとカップを包み込む手に力を込める。 「……ごめんね、こんな重い話」 「忘れる必要、無いんじゃないかな」 「小林くん…」 「無理に他の誰かを好きになる必要はないよ」 小林は困ったように笑った。 「俺には親もいないし、誰かをそこまで好きになった事はないけど」 「ごめん」 「謝らないで。重要なのはそこじゃない。谷口さんにとっての『幸せ』が何かを見付ける事なんじゃないかな」 「僕にとっての……幸せ?」 「うん。例えばどんな小さな事でもいいんだ」 そう言って小林はカップを手にしたまま上を向いた。 「俺だったら……そうだな。谷口さんとお弁当が毎日食べれて幸せ、とか」 「僕のお弁当?」 「うん。谷口さん()、お弁当」 そう言って小林はニカッと笑った。 「俺長い事自炊してたからさ。誰かに作って貰ったものを食べるのが施設を出て以来だったんだ。あ、勿論外食したり惣菜買って食べたりはしたよ?でも、ちゃんと『自分の為に作って貰ったご飯』ってもしかしたら初めてだったかも知れない……。食うのもずっと一人だったし。それが、今は一緒に食べてくれる人がいる。凄く幸せな事だなって思ったんだ」 施設のご飯は『皆の為のご飯』だし。俺、身内居ないしさ、とポツリと呟く。その何処となく寂しそうな姿が自分と重なり、谷口は言葉を詰まらせた。 「だから、谷口さんが俺の分の弁当作ってくれるって言った時、めちゃくちゃ嬉しかったんだ」 そう言うと、へへっ、と小林は照れ臭そうに笑う。その言葉と笑顔が、谷口の中にある決心をさせた。 「小林くん……有り難う。君が嫌じゃなかったら、これからもお弁当作らせてくれる?」 「勿論!一緒に食べよ!」 「それと」 「それと……?」 「土日のどちらかで構わないから、昼食か夕飯を今日みたいに一緒に作って食べたいなと思ったんだけど……ダメかな?」 「えっ」 谷口の思い切った提案に、小林は目を丸くした。 「勿論小林くんにも予定があるだろうし、無理なら断ってくれても構わない」 「谷口さん……」 「気付いたんだ」 そう言って谷口はふっと笑う。それは小林が未だ嘗て見たこと無い、柔らかく優しい微笑みだった。
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