星型ロボットと、未来のおくすり

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「吉郎くん……君は立派な薬剤師だ」  本当の最後まで読み進めたエブリンは、窓を開けた。  最後に吉郎が自ら目を閉じて、この時代に帰る時の心境が書いてあった。  エブリンの知らなかったことだ。  吉郎は暗くなった視界の中で、少年に約束した。  俺がおまえを救ってやる。  俺は薬剤師にはなれなかった。でも、ひつとだけおまえに薬を渡してやることができる。  それは、俺の書く物語だ。  一冊の小説、それがおまえのおくすりだ──。 「いい風呂だったぁ……って、あれ? エブリン?」  吉郎は部屋を見渡した。  開けっぱなしの窓から吹き込む夜風が、机の上のメモを揺らした。  読めと言わんばかりに、エンブレムがその横で光っている。 「……ありがとうな、エブリン」  遠い空へつぶやくと、パソコンの画面に向き合った。  小説のタイトルを書き込むと、「終わったぁ」と言って、しばらく余韻に浸る。  体が軽い。一生懸命書いたあとなのに、気持ちが軽くなっている。  おばちゃんがくれた風船のように、ふわふわと、つかまって飛んで行けそうな気持ちだった。  こんな気持ちになれるなら、続けてもいいかな。  よし、じゃあ次は──。  キウイをかじり、キーボードに手を伸ばした。  おばちゃんみたいに、もっとたくさんの人を救える、そんな気がしてきたのだ。  吉郎はエブリンの残したもうひとつのおくすりに気づき、笑みを浮かべた。 「小説を書くってのも、ひとつの薬みたいなもんだな」  エンブレムのまばゆい光を浴びて、吉郎の目は光輝いていた。 〈おわり〉
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