一 彼との出逢い

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一 彼との出逢い

 彼との出逢いは、まさにベタな恋愛ドラマかラブコメ漫画のような、いかにも陳腐なワンパターンだった……。 「──早くしなきゃ! 会議に遅れちゃう!」  しがない総合商社に就職したわたしは、この日も一年生OLとして、会議用資料の準備に忙しくしていた。 「…ああ、それじゃあ、そういうことでお願いします…あっ!」 「きゃっ…!」  急ぐあまり、大量の紙の束を抱えて小走りに廊下を進んでいたわたしは、廊下を曲がって現れた男性とぶつかってしまった……二人の社員を従え、話し合いながら歩いて来た若いシャツ姿の人物だ。 「すみません。大丈夫ですか?」 「…痛たたた……こ、こちらこそすみませ…ハッ!」  床に紙をバラ撒き、尻餅を突いてしまったわたしは、しゃがんで謝罪をする男性に謝り返そうとするが、彼の顔を目にすると思わず息を飲んでしまう。  これまたベタなくらい、万人受けするような典型的イケメンだ。韓流スターにいてもおかしくはないタイプである。 「……あ、い、いや。こっちこそつい話に夢中になってしまって……拾うの手伝うよ」  思わず見惚れて固まってしまっているわたしに、彼は怪訝な顔をしながらも、派手に散らばったわたしの資料を拾い集めてくれる。 「……あ! す、すみません! あとは自分でやりますから……」 「なに、みんなでやった方が早い……」  我に返ると慌ててそのご厚意を制するわたしであるが、彼は他の二人とともに最後まで拾うのを手伝ってくれる。 「はい、これ。じゃ、お仕事がんばってね」 「あ、は、はい……」  そして、綺麗に揃えた資料を手渡し、颯爽と去っていく彼を、私は呆然と生返事をして見送ることしかできなかった。  ただ、それだけのなんでもない出逢いである……だが、その時以来、わたしは彼のことがどうにも気になって仕方がなくなってしまった。  一目惚れ……というのとは何か違うように思う。  いや、顔やその紳士的な態度に好感を持ったのは確かだが、それは恋心でもなければ好意というものとも異なっている……それはもっと本能的なものといおうか、魂の奥深くから湧いてくる感情といおうか……そう。ちょっとオカルトじみた言い方をすれば、〝前世〟から関わりがあるような、そんな気がしてならないのである。  いずれにしろ、そんな不可思議な感情に引きずられるようにして、この日を境にわたしと彼の運命は奇妙に重なってゆくこととなるのだった……。
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