秘めていた想い

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「俺はな、悠斗。  普通に女の人と結婚して普通の家庭を築くことが正しいって思ってた。  だけど十数年前、それが揺らぐ出来事が起きた。ある人から告白されて、その人が、男だったからだ」 「え」  それって。 「告白されるまでの日々はずっと穏やかで、幸せだった。その人が初めて作ったカレーは人参が固くて、水っぽくて、成功とは言えなかったけど、人生で一番おいしかった。家に帰るのが楽しみで、笑う顔が愛おしくて、でも自分では家族愛だと思っていたんだ。  告白されて動揺したよ。  嫌悪感じゃなくて、自分も心の奥でそう思っていたことに気づいたからだ――恋愛対象として好きだって」 「優さん……」 「だけど彼はとにかく若かった。未来があるから、気持ちも変わる。俺だって当時、自分の気持ちに戸惑った。人生がめちゃくちゃになる気がして怖くて、だから彼の気持ちをなかったことにした。普通の家族として生きる道を選んだんだ。  それから人に紹介されるまま、玲奈と結婚した。普通の結婚をすればこの気持ちも落ち着くって思ったけど……結局、結婚生活は昔の思い出を超えることはなかったよ。  一度失敗しないとわからないなんて、馬鹿だ、俺は」  優さんは、額を抑えて溜息をつき、それから僕を見た。上目遣いにどきり、とする。馬鹿は僕のほうかもしれない。離婚式って聞いてイライラしていたくせに、やっぱり好きだ。 「もう彼だって心変わりしただろうけどな……」 「そんなことないよ!」  僕はテーブルから身を乗り出した。優さんの驚いた顔が近づく。 「きっとその人は、今でも優さんのことを……んっ」  優さんは人差し指を僕の唇に当てた。 「離婚式が終わってけじめをつけたら、俺はもう1回その人に会いにいくつもりだよ。  今度こそ気持ちを伝えるんだ」  さっきまで心配そうだった顔が、心から安心した笑顔に変わっていた。
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