異世界での受難

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 この時、俺はすっかり忘れていた。  親父が散々言っていたのに、かなり重要なことが頭から抜け落ちていた。  それは、異世界召喚で無能だと捨てられた大抵奴らが辿る王道展開······  「え? 雇ってほしい? あんた、ジョブはなに?」  「あー無理無理。"無職"なんて雇えるか。そういう奴はなにをやってもダメなんだよ」  「料理が得意? あのなぁ、うちだけじゃなくて、どこの店も料理系のジョブを持つ者しか雇わないんだよ」  魔の森を歩いて2時間後、俺はついた町で頭を抱えた。  そして思い出した。  『異世界はだいたいスキルや職業主義で、捨てられた奴はそこで絶望してまぁ色々やって這い上がるんだよ』  色々ってなんだよ、親父!?  異世界の厳しさを体験させられた俺は薄暗い路地裏にしゃがみこむ。  『いいか。もし持ってるスキルや職業が一見ショボくても、現代知識を合わせたら最強になるんだ』  『いや、無理だろ。現実はそこまでご都合主義じゃないし、チート能力なんてそれこそラノベだけ──』  『ちっちっちっ! 主人公たちは皆、最初はそう言う。だが、結局最後はなんとなっている。それに現実にだってあるはずだ。ご都合主義が!』  ねぇし、"無職"をどう最強にするんだよ!?  俺は周囲の人に聞き回り、ここの常識をなんとなくだが把握した。  まず、誰でもある程度成長したらジョブがわかり、そのジョブに合った職業にしか就けない。  どんなジョブかはその人の才能とこれまでの努力次第。  そして俺が持つ"無職"は······不真面目・努力不足・才能のない奴の証だそうだ。  「いや、なんでだよ!?」  これでも学校の成績は上から数えた方が早いし、真面目に授業だって受けてる。  才能は······知らないけど、料理ならかなりできる。  それでもダメなのかよ!?  異世界はとても厳しく、今まで親に守られてきたか弱い日本人にはかなり生きにくい。  「親父ならどうするんだ······?」  一応ラノベは読むが、親父ほどじゃない。  平穏を望む、ただの平凡男子高校に異世界とか無理ゲーだ。  しかもジョブが"無職(ゴミ)"ときた。  かといって、このまま野垂れ死ぬなんてごめんだ。  あーあ······  「もういっそのこと、誰かに寄生するかぁ」  もちろん、この言葉は冗談。  とにかくこの鬱々とした自分の気分を少しでも明るくしたかっただけ。  できっこないこと言って、自分に呆れてなんとか気合いを入れ直したかっただけ。  なのに······  「なら、僕の所に寄生する?」  「は······?」  本気にするヤバい奴が現れた。
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