プロローグ

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プロローグ

 親父は言った。  異世界召喚は人類全員の憧れだと。  この時俺は、文明の遅れた世界よりも便利で平和な日本がいいだろと思った。  お袋は言った。  運命の同性と出会ったら、世間の目や孫のことなんて考えるなと。  この時俺は、なぜ普通に女子が好きな俺の運命の相手が"同性"限定なんだよと思った。  そして両親は口を揃えて言った。  もし異世界に行ったり同性を好きになっても、親よりも自分のことを優先すること。  そして誰よりも幸せになりなさいと。  普通、親が子に教えることではないと思う。  最後は良いことを言っているが、そもそもの前提がおかしい。  第一、異世界召喚が現実で起きる訳がない。  てか、起きてたまるか。  戦争やサバイバル生活がありそうな異世界より、娯楽があって便利で暮らしやすい日本の方が断然いい。  勇者になって魔王を倒す、そんな王道は物語だけで充分。  恋人だっていつか両想いになった可愛い女子とがいい。  異世界召喚も男との恋愛もあり得ない······そう、思っていた。  「マヒルの世界に僕と同じ魔王はいるの?」  「いないいない。魔王はお伽噺やラノベくらいだったし」  「そっか······そのラノベ? とかに出てくる魔王はどんな人? 全員が悪い奴なの?」  「いや、それこそ十人十色。極悪非道の魔王もいれば、逆に正義の味方の魔王もいる。その時の流行にも左右されるけど、最近は悪役がいい奴設定が多い」  「悪役なのに、いい奴······? えっ? 勇者は?」  「実は勇者が悪っていう設定。最後は魔王が勇者を倒して世界を平和にするのもあるらしい」  悪役が実はいい奴で、最後は幸せになる。  ここ数年はこういうのが流行っている。  母がよく、悪役令息がヒロイン(男も可)をざまぁする小説やマンガはBL界の至宝だと言っていた。  「······イケメン?」  「え?」  「その魔王はイケメンだった?」  「まぁ、その方が物語の展開をおもしろくするしな」  絵師さんの頑張りのおかげで、キャラクターたちの顔面偏差値はかなり高い。  平凡設定の奴もだいたい美形だ。  「······妬くよ」  「ん?」  「マヒルの中にいる魔王たちに妬いちゃう。僕より好き?」  「いや、全部物語の中だからな。俺には推しなんていなかったし、『1番好きな魔王は?』って聞かれたらお前って答えるから」  「そっか······!」  異世界召喚なんてあり得ない。  男と恋愛するなんて絶対にない。  別に偏見はないが、俺は普通に女の子が好きだし。  なのに、その考えは簡単に覆されてしまった。  その証拠に現在進行形で俺は男の膝の上に座り、頬ずりやキスを受け入れている。  「マヒル、愛してる。僕の最愛」  「はいはい」  「マヒルも僕のことが好き?」  なぁ、親父。  異世界召喚をされる本を大量に読んだのなら、こういうのは珍しくないのか?  ジョブがゴミだからと捨てられるのはよくあることだと俺も知っている。  でも······  「嫌いだったらお前を受け入れねぇよ。わかってるだろ、リューイ?」  そのあと、魔王の最愛の妻になるのは王道なのか?
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