其ノ壱:百年後

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其ノ壱:百年後

 ――かつて横行していた暴力による支配、強奪。  そして、その結果もたらされる不自由。  百年前、理不尽に襲いかかる鬼によって美作国(みまさかのくに)の人々の生活は脅かされていた。  鬼は酒や家畜、農作物を奪い、女子供を(さら)い、勇敢に戦う男たちの命を容赦なく奪った。悪逆非道の限りを尽くしていた。  そんな折、まさに神が遣わしたかのような時宜(じぎ)に英雄が現れた。かの有名な「桃から生まれた、桃太郎」その人である。  桃太郎はとにかく強かった。鬼が束になっても敵わぬほどに。  英雄は鬼たちから美作を守るのみでなく、鬼の住処である鬼ヶ島へと攻め入り、犬猿雉という家来を従え、見事鬼を成敗してみせたのだ。  百年経った今も語り継がれる、桃太郎の英雄譚である。  そして驚くべきことに、桃太郎はまだ存命している。  その肉体は老いることなく、力強さも伝説そのままに、今も美作国の山奥でひっそりと暮らしていたのだった。  しかし移ろう人の世に影響され、その生活は変わりつつあった。
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