祖母との約束

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祖母との約束

 蝉の合唱がフォルティッシモで響き渡る、木々と花々が広がる田舎町の昼下がり。香織(かおり)は実家の和室で一通の封筒を大切そうに持ちながら、トルソーに飾られているウェディングドレスを輝く瞳で見ていた。  ボディラインが綺麗に見えるAラインのシルエット、編み上げになっている華やかなバックスタイル、幾層にも重なり合った繊細なチュールレース、パールのように上品なサテンのドレープ。 「香織。再来週の結婚式でこのドレス着るの、待ちきれないでしょ。今週中にはドレス、式場に送っておくからね」  母・千代(ちよ)が麦茶の入ったグラスをトレーで運びながら、陽だまりのような笑みを向けた。 「ありがと。おばあちゃんが作ったドレス着るの、小さい頃からの夢だったからね。お母さんも、このドレス着た時はすっごーく嬉しかったでしょ?」 「そりゃそうよ。今はもう着れない体系になっちゃったけど、香織が丁度昔の私と同じような体系で良かったわ。このドレスも、まだまだ活躍できそうね」  チャレンジ精神旺盛で、エネルギーで満ち溢れていた祖母。呉服屋で縫製の仕事をしていて、出産を機に退職してからもキルト作り、洋服作り、アクセサリー作りやトールペイントなど様々なことに挑戦していた。普段から指先を動かしているからだろうか、家族の誰よりも手先が器用だった。手に何本皴が増えようと老眼鏡を欠かせなくなろうと、家族の誰よりも速く針に糸を通せていた。
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