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無地の藤色の着物が風に揺られてはためいていた。
「月岡さんが一番、適任やと思います」
「なぜだ? 京の奴らは揃いも揃って間抜けなのか?」
「そうではありません。やけど、今回のは嗅覚と言いますか直感と言いますか、すぐに妖を見抜ける目が必要なんです」
柔らかな方言で話してはいるが、力強い瞳に凛とした佇まいは厳格な響きを持っていた。
京極楓。妖を封じる術を持つ京極家の双子当主の姉の方だ。
黒羽色という言葉が最も似合う長い黒髪は綺麗に結われ、人形のような色白の顔を引き立てている。
月岡は一目見たときからこの人物を苦手と感じていた。理由を問われても言語化することはできない。それこそ直感と嗅覚がそう判断している、としか言えない。
月岡と同じ年くらいであるが、漂う風格がそれとは感じさせない。一種、妖怪じみていると感じていた。
月岡はスーツの胸ポケットから煙草を一本取り出すと当主の目の前で煙をたゆらせた。今いる場所は京極家の広大な屋敷の離れにある庭園。煙草の煙は風がかき消してくれることだろう。
「まっ、別段問題はない。あの事件よりもずっと簡単なんだろう? 当然、あんたらみたいに戦う術はないからな」
月岡は、大掛かりな事件の関係で妖の総本山とも言える京へと呼び出されていた。事件後、短い休暇をもらったから京の都でもゆっくり見て回ろうか、と思っていたところだった。
「戦う力は関係ありません。この妖に戦う能力はないですから。あるのはただ、化かすだけです」
「化かす……まさか狐か?」
月岡は眉間にシワを寄せた。本人も知らない間に咥える煙草を強く噛んでしまっている。
京極楓はふっと、微笑むと首を横に振った。
「違います。狐だとしたらあなたには頼めない」
「なんだじゃあ、狸か猫か?」
「それも違います。彼は、そうもはや彼と言っていいでしょう。彼は付喪神です」
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