付喪神コンチェルト

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「おい! いい加減、もう追い詰めたぞ!」  月岡(つきおか)千尋(ちひろ)は腰に提げた拳銃を素早く引き抜くと、その対象に銃口を向けた。  狙われた男は、抵抗するでも何を言うでもなくただ黙って月岡を見つめる。  空気がピリつくほどの緊張が両者の間を張り詰めていた。僅かでも動けば撃つーーと月岡は決めていた。  この男は(あやかし)だ。逃がせば余計な混乱が広がるだけ。京極の双子当主は生きたまま連れてくることを望んでいたが、場合によっては致しかたない。  混乱を鎮めるのが、秩序を守るのが警察官たる自分の仕事だった。  まるで動じないが、しかしこちらの指示通り動こうとしない男に向けて、月岡は次の指示を出した。 「よし、そのまま両手を上げろ。いいか、余計なことをすれば即座に撃つ」  男はなおも動揺の色を見せずに月岡の指示に従い両手を上げた。妙な何かを手に隠し持っているわけではないようだ。  だが、油断はできない。相手は人間ではない妖だ。何かこの場から逃れられる手段があるのかもしれない。  ジリジリと詰め寄る。一足飛びで体に飛びつき束縛できる距離まで。慎重にゆっくりと。 (よし、このままいけばようやくーー)  そう思った矢先のことだった。後ろから甲高い声が走った。咄嗟のことに月岡は犯人を前にして振り返ってしまう。  一人の女がそこに佇んでいた。 「やめて! その人を逃がしてください! お願いします! どうかどうかお願いします!」  女は地べたへ倒れ込むように体を落とすと、額を地面へとつけて土下座し始めた。 「お願いします! どうか、どうか! お願いします!」  ーーことは一日前に遡る。 
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