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第1話 フラれた
それは、お別れの夜だった。とある高いお店で、二人でカウンターに並んでいた。
結局、総論として、私はフラれた。
「由莉子のお父さんの大学ってSでしょう?僕からしたらいまいちなんだよなあ。」
「由莉子のお父さんの職業ってなんかさあ、アレなんだよな。」
「あのさ、結婚披露宴とかしたときに、ぜんぜん自慢できないでしょ。」
「でも、由莉子は二番だから。確かに由莉子は僕にとっては一番じゃない。でも、由莉子は二番だから。」
お酒を飲みながら、わたしは大好きな人にそう言われた。わたしは平気なフリをした。以前、彼の前で泣いたら、泣かないでと言われたから泣かなかった。いや、本当のところは泣けなかった。衝撃が大きすぎると人は泣けないのかもしれない。
友達や同僚を大勢呼んだ結婚披露宴を開催したとして、そこで自慢できる嫁ではない、私の親が貧乏で、私の親の職業が自慢できない、私の親の大学がいまいちという理由で、彼の二番目だと言われた。彼の一番目にはなれないということらしい。
「やっぱり可愛いなあ。」
「由莉子は可愛いっ!」
彼はわたしを見つめて可愛いを連呼した。相当酔っぱらったのだろう。カウンター奥の職人さんが、心配そうにわたしのことを見た。わたしは平気なフリをした。「大丈夫です。今晩、間違っても彼に抱かれることはありませんから。」心の中で職人さんにそう告げた。
その夜、そのあと何度も何度も「可愛い」と彼に言われた。しかし、私の心は決まった。
見返してやるしかない。
「約束して。必ず、結婚して、子供を産んで、幸せになる。これは約束だよ。」と彼に言われ、私はうなずいた。
二人で約束の指切りをした。
言われなくてもそうして絶対にそうしてやる。私の心は決まった。固い、固い、強固な熱い闘志が私の心の中に燃えたぎった。
その夜、私はやっぱり彼に襲われそうになったが、きちんとお別れした。ハグすらしなかった。わたしは一人タクシーに乗って、名残惜しそうな彼をそのまま置いて帰った。
「さよなら、私の青春。二番目の女性ではなく、私は一番目の女性よ。」
深夜のタクシーの中で、わたしは自分に言い聞かせた。これから、わたしのことを一番目だと思ってくれる人を探そう。
彼のせいで死にたくなるほど辛かったとき、夜中に泣きながらコンビニに駆け込んだことがあった。その時、暗くなる自分が怖くて明るくて人がいるコンビニに駆け込んだが、私が自分を保っていられたのは、私の父親との温かい記憶があったからだ。
あなたに、私の家族の何が分かるの?
まずは仕事に生きよう。そして、必ず見返すのだ。
私の目標はこの世界の最大勢力マテキのトップに君臨して、結婚もして、あいつを完璧に見返すのだ。
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