33.エピローグ

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33.エピローグ

恩赦からさらに8年後――オットーは未だに独身で婚約者も恋人もいなかった。公爵家の後継ぎで見栄えもいい男性だから30歳近くになっても婚約申し込みが絶えることはなく、夜会で熱い視線をいつも受けていたが、女性を寄せ付けていなかった。 その年、辺境のシュミット家の屋敷は、数年振りに会うラウエンブルク公爵家一同を迎えるためにてんやわんやしていた。 「ミハエル、をちょっとだっこしていてもらえますか。明日お父様、お母様とお兄様が到着するので、客用寝室の準備をしてきます」 「あぁ、でも侍女に預けたほうがよくないか?僕はいつ正気を失うかわからないから、僕に預けるのは心配だろう?この無力で無垢な存在を壊してしまいそうで怖いよ」 ダリア-かつての名はユリア-とミハエル-かつての名はマクシミリアン-は辺境に移ってから、通いの料理人と下女以外の業務以外、全て自分達でやっていたが、意識の混濁することの多かったミハエルがやれることは多くなく、ダリアの負担は大きかった。2、3年前ぐらいからはミハエルの調子がよくなり、ダリアが妊娠してからは住み込みの侍女1人を雇うことになった。辺境なので、乳飲み子を抱える乳母は見つからなかったが、住み込みの侍女がいるだけでもダリアは大分助かった。 「貴方がずっと正気を保つことができるようになったから、この子を授かろうと2人で決めたんじゃないですか。もう大丈夫です、自信を持って。貴方はこの子のパパです」 「僕は父親っていう存在がよくわからないんだ。僕の父親が残念ながらああだったから。父親として何を息子にすればいいんだろうか?」 「そんなに気負うことはないんです。私達は親としてマクシミリアンを愛していますよね。それを態度で見せてあげればいいんです」 「…ありがとう、ダリア。僕はこんなにやさしくて美しい妻とかわいい息子がいて本当に果報者だ。あんな無様な姿を晒したというのに…」 「それは言わない約束ですよ、ミハエル。私も幸せをもらっていますから、いいんです」 マクシミリアンを抱いたミハエルとダリアの影が重なった。 それから2週間後、ラウエンブルク公爵家3人は辺境にあるミハエルの屋敷を馬車で出発し、王都へ帰途についた。馬車の中でしばらく無言のままでいた彼らだが、ラウエンブルク公爵夫人が涙ぐみながら口を開いた。 「本当にいろいろありましたけど、今は3人で幸せそうでよかったですね」 「本当だな。今度はオットーに幸せになってもらいたいよ」 「父上、母上、幸せな妹一家を見れてようやく僕もあの事件をふっきれたように思います。私もやっと結婚したいと思えるようになりました。もっとも、30歳近い私ではなかなかいい相手は見つからないかもしれないですけどね」 「いや、伝手を使いまくって令嬢の身上書を集めるよ」 「あら、集めなくてもいまだに釣書は来ているでしょう?」 「でも私の目にかなった令嬢の釣書はなかったよ」 「私の結婚相手が見つからなかったら、ユ…ダリア達に頭下げてマクシミリアンを養子にもらったらどうでしょう?」 「いや、それは陛下が狙っていると思う」 「えっ、陛下はもう生涯独身と決めてますの?」 「うん、まぁ、おそらくな…」 その予想は半分当たっていた。ヴィルヘルムは在位中、独身を通したが、退位してから未亡人と結婚した。詳しくはまた次の話で―― 男性でも結婚適齢期をとっくの昔に過ぎたオットーの婚活は、公爵家嫡男という立場でも難航した。今の結婚適齢期の令嬢の親世代は、まだ元公爵令嬢ユリアと元第一王子マクシミリアンの悲劇を忘れていなかった。それでもオットーは苦労の末、愛し愛される結婚相手を見つけられた。でもそれもまた別の話ということで―― 後世の歴史書はこう記述する。 『ヴィルヘルム王太子、後のヴィルヘルム4世は在位中独身を通し、3代前の王弟の落胤の曾孫マクシミリアンを養子に迎え、王室典範を改正して王太子にした。マクシミリアン王太子は、直接の血縁がないにもかかわらず、獄死したヴィルヘルム4世の同名の兄によく似ていたという。』
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