君と、最期の散歩道を。

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「待て」 「はい」 「なぜ僕が一人暮らしの大学生だと知っている?」  確かに、年齢相応の容姿をしている僕は大学生に見えるだろう。だが、今年入学したばかりだし、髪も染めていなければ野暮ったいTシャツにズボンなので、高校生に見えてもおかしくない。それに大学生に見えたとして、なぜ一人暮らしだと分かったのだろうか。  すると、少女はよくぞ聞いてくれましたとばかりにふふんと笑った。 「私は今日、だいぶ前からあのベンチにぼーっと座っていました。だから一部始終を見ていましたが、あなた、ここへ来るのに鳥居を通ってこなかったでしょう」  どうやら、そこから見られていたらしい。  不敬を咎められるのか、と思ったが、論点はそこではなかったようで。 「鳥居を通ってきたら、あの左手の階段から上がってくるはずです。でも、あなたはあっちの奥の脇道から入ってきて、きょろきょろしていた。神様に真剣なお願いをするのに、物ぐさで鳥居を通らずショートカット、なんてことはないでしょう。ということは、失せ物探しのうわさを聞き付け、初めてここに来ようとして、地図アプリか何かで辿り着いたはいいが、脇道から入ってしまった、というところじゃないですか?」  反論の余地はない。補足事項もない。全くもってその通りだ。  だが。 「それでなんで一人暮らしの大学生なんだよ?」 「鳥居に気づかず脇道から入ってしまったということは、大通りから来たわけではないですね。脇道を挟んで反対側の道から来たんでしょう。あそこからは角度的に鳥居が木の葉に隠れて見えにくいですし。で、その道を進むと公園とか公民館とかがありますけど、車道を挟んで向かい側、アパートがいくつか立っています。あそこ、立心大学に通う一人暮らしの学生の巣窟なんですよ。それより先は商店街ですし、徒歩圏内と考えたら、そのアパートの住人の可能性が高いかと。ああ、駅から歩いてきたという案も却下です。駅は大通り側にありますので」  むぅ、と僕は感心のため息をかみ殺した。悔しいがその通りだ。僕は脇道から車道を抜けた先の三階建てアパートに住んでいる。確かに、お隣さんも大学生っぽい人だった。  僕の顔を見て図星を悟ったらしく、少女は得意げに胸を張った。 「なかなかの推理力でしょう?」 「まあ、確かに。いい大学に行けると思うよ」 「失敬な。もう大学生ですよ」  失言を指摘され、僕は思わず「あ、ごめん」と謝った。女性というより少女といった風貌だったので、つい高校一年生か二年生くらいだと思っていたのだ。 「まだ一回生なので、去年までは高校生でしたけどね。あと、すでにいい大学に行ってます」  両手でピースサインを作り、それを目からビームでも出すかのように左右の目じりの辺りに添えて、豪語。 「天下の! 京都の! 帝・大・生!」 「あ、僕も全く同じ。同級生だったのか」 「……え、立心大じゃなく!? あのアパートに住んでおきながら!?」 「あそこしか部屋が取れなかったんだよ……出遅れすぎて」  僕は当時のことを思い出して、少女は自らの推理の不完全さに、しばし悄然としていた。 「……とりあえず、話を戻しましょう。どうです、私の推理力をもってすれば、探し物もすぐに見つかることと思いますが」 「いや、けど……初対面の人に手伝ってもらうのも悪いし」 「何をおっしゃいますか。同じ大学の同級生です、これから仲良くしましょうよ。それに、大事なものなんでしょう?」  確かに、同じ高校出身の同級生がおらず、サークルにも入っていないので、友達といえば語学の授業でできた数人だけ。偶然出会ったこの気さくな少女が新たな友人として加わってくれるなら、まんざらでもない。  それに――彼女なら本当に見つけてくれそうな気がして。 「……」  僕は迷った末に、意を決した。
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