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第一話 明日の歴史を書き換えろ!
第一章 マザラン枢機卿の呪い
1・
1940年6月14日
それは栄光の都・パリが、ナチスドイツに陥落した日だった。
鍵十字の旗印が、ベルサイユ宮殿とエッフェル塔に掲げられ、恐怖政治がヨーロッパを覆いつくそうとしていた初夏。
ロンメル将軍が率いるドイツ軍の装甲部隊の冷たい鉄の臭いが、パリの街を蹂躙しながら大通りを行進していった。
フランス学士院の墓所で永遠の眠りについていたマザラン枢機卿の穏やかな眠りを破ったのは、そんなパリ市民の悲嘆にくれた嘆きの声だったかもしれない。
「何事だ」、かすれた低い声が墓所の大理石の床に響く。
「最後の審判の日が、ついに訪れたのか」、マザラン枢機卿は外のざわめきに安らかな眠りを破られ、279年ぶりに目を覚ました。
長く閉ざされていた墓所の、ファスケスに3個の六芒星を刻んだ大理石の蓋がずれ、隙間から棺桶が現れる。
やがて棺桶の中から、濃い雲のような白い霊気が流れ出ると、床を這って外へと流れ出て行った。
外の空気に触れると、白い霊気は塊をつくり、やがて生前のマザラン枢機卿そっくりの人型に変貌していく。
その人型が、かすれた声で呟いた。
「我が美しいフランスに、いったい何が起こったのだ」
「ルイ十四世陛下はどこに居られる?」、おぼつかない足取りで、パリの大通りに向かって霊気でできた人型が歩き出す。
途中で出会ったドイツ人に、キツイ眼差しをくれながら向かった先は、ベルサイユ宮殿だった。
道々、ドイツに占領されて景色の変わったパリを眺め、思わず嘆息した。
だがもっと彼を驚愕させたのは、荒れ果てたベルサイユ宮殿の庭だった。
彼が生まれ故郷のイタリアを捨てて生涯を捧げた、輝かしいブルボン王朝の栄光と栄華の象徴。
太陽王・ルイ十四世が築いたベルサイユ宮殿が、落日の中に侘しい姿をさらしている。
すでに王宮としての役割を終えてから長い年月を経たベルサイユ宮殿は、華やかだった時の名残も消えはて、閑散とした姿になり果てていた。
しかもその閑散としたベルサイユ宮殿の上には、不細工な鍵十字・ナチスドイツの旗印であるハーケンクロイツがはためいていたのである。
マザラン枢機卿の頭に血が上ったのは、まさにその瞬間だった。
許しがたい暴挙だった!
「何としても蘇らねばならぬ」
ハッキリと目覚めた。
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