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先に降りてきたのはスポーツ刈りの男性で、片手には折り畳まれた子供用のベビーカーを持ち、空いた方の腕では子供を軽々と抱きかかえている。
無人島でも逞しく生きていけそうなくらい、強靭な体力の持ち主だなと感心していると、隣にいた大和君はその男性に向かって驚嘆の声を上げた。
「宏明さん!?」
大和君がそう叫ぶと、男性は子供に向けていた視線をこちらへと向ける。
そして、同じように驚いたような表情を浮かべたが、大和君とは違って、とても落ち着いた口調で話しかけてきた。
「大和……?こんなところで何してんの?」
「何って、カレー食べにきたんですよ……!この間、宏明さんに教えてもらった」
「今、満席だったぞ。3組くらい並んでた」
「本当ですか!?まあ、めっちゃランチタイムに被っていますもんね」
どうやら、この男性は大和君の言っていた「先輩」のようだ。
偶然会えたことに、子供のように興奮してはしゃいでいる大和君と、至って冷静な先輩の温度差が見ていて面白くて、普段からきっとこんな感じなのだろうと想像できる。
私とそう変わらない年齢だと思うが、慣れた手つきでベビーカーを組み立てて子供を乗せている姿が立派な父親で、ほんの少しだけ切ない気持ちになってくる。
「こちら、先輩の武内宏明さん。同じ部署の先輩なんだ」
大和君がそう紹介してくれると、彼は子供をあやしながら、ペコリと小さくお辞儀をしてくれる。
私も自己紹介をするべきだなと思いつつも、どこまで話して分からずに言葉に迷った。
家族のようだけれど実際にはそうではないし、同居人だということを漠然と言ってしまってもいいのもなのか……と。
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