結城都、アイドルになる

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結城都、アイドルになる

 ああ――この瞬間のために私は生まれたのだ!    そんなふうに思えるほどの喜びが、十六歳の夏、突然訪れた。  私、結城(ゆうき)(みやこ)は地方都市の中流家庭に生まれた普通の高校二年生。平均的な偏差値を持つ学生が集う、至極平凡な市立高校に通っている。家族構成も超が付くほど一般的で、サラリーマンの父、専業主婦の母、大学生の兄の四人家族だ。あと、愛猫のポポアも大事な家族だね。    そんなごく普通の女子高生である私にも、一応、悩みというものがあった。大人が聞いたら失笑するに違いない、ささやかな悩み。だけど、私にとっては地球温暖化問題に等しい、鬼気迫る問題である。  私の悩み、それはずばり、『普通すぎること』。  つまり、私には、何も秀でたところがない。学力や運動神経、それに歌唱力や画力といった芸術的センス――そういったありとあらゆる能力が、ごく平均的な高校生のそれ。  ただ、外見についてだけ言えば、メイクや髪型、自分に合うファッションを徹底研究した甲斐あって、クラスの中では『まあまあイケてる女子』に分類されると自負している。  だけど、あくまでそれはクラスでの話。ひとたびインターネットの世界を覗けば、規格外の美貌の持ち主がそこら中に転がっている。どう考えても、私なんて井の中の蛙だ。  自分の平凡さを最も実感するのは、いわゆるインフルエンサーと呼ばれる有名人と自分の、SNSのフォロワー数や「いいね」の数を比べた時。例えば、私のお気に入りのK・POPアイドル・Uちゃんのフォロワー数は千五百万人だけど、私のフォロワー数は二百人。ねえ、ちょっと、すごい差でしょ。  こういうのを見ると、Uちゃんは特別な女の子で、私のほうは取るに足らない一般ピーポーだということを、嫌でも自覚してしまう。Uちゃんが死んだらたくさんのファンが悲しむけど、私が死んでも悲しむのはせいぜい数十人ってことを、淡々と突き付けられた感じだ。何だか無性に虚しくなる。路傍の石の悩みだね。  こんな私も高校二年生になって、将来について考える機会が増えてきた。  とりあえず大学に進学して、そのあとはなんとなく就職して、三十歳手前で結婚して、その結果、両親のようなフツーの家庭を持つのだろうと、漠然と思っている。そういう未来を切望しているとかじゃなくて、特に得意なこともないし、やりたいこともないから、他の進路が考えられないってだけ。  いやはや、取るに足らない人生ですよ。絶望するほど不幸なわけでもないけれど、つまんない未来がほとんど確定している人生なんて、夢も希望もないと思わない?  だけど、そう、十六歳の夏、私の人生は特別なものに変わった。
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