夏祭り

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夏祭り

真夏の夜、周りは親子連れ、友達同士、カップル。  人、人、人人人人─── …。 「人が多いよ、帰ろうよ」 「圭、そんな事言わないの。ほらっ」  一颯さんは、俺の口にもちもちポテトを一本口に入れた。 「んごんんっ」  もごもごしている俺を見て、一颯さんは爆笑している。  毎年、俺の部屋のベランダから見ていた花火大会。  今年は、ベランダではなく、現地の会場に来ていた。二人とも去年とは違う場所に住んでいるため、会場のホテルを近くにとって行こうと数ヵ月前から計画を立てていた。  しかも、今回は二人とも浴衣を着ていた。  一颯さんは、黒とグレーのストライプの浴衣をシックに着こなしていた。  ─── 一颯さん、かっこいいっ…!  圭は、思わず惚れ惚れしていた。  先ほど、若い女の子たちが一颯さんを見て、ひそひそと話しているのが聞こえていた。  『あの、黒のストライプの浴衣の人、かっこ良くない?』  『ほんとだね。やばい』  一颯さんは、モテる。そんな人と、恋人同士で一緒にお祭りに来ているなんて夢みたいだ。  頭上で赤ちょうちんがゆらゆらしている。  ぽっとともる赤い光とそんなことを考えていた。 「…なに、ぼーっとしてんだよ。危ないだろう」 「あ、ごめん」 「まさか、俺に見とれてたか?」  意地悪そうに言う。 「ち、違うよ」 「そんな、否定しなくても。冗談だって。  俺は圭の紺の浴衣姿、かわいいなって思ってたのに」  不意打ち過ぎて、言葉が出てこない。  こう言うのは、慣れてない。  調子が狂う。 「一颯さんって、こういうこと言う人だっけ…?」  付き合ってから、俺の中のイメージが変わりつつあった。 「そうだよ。俺、恋人にはドロドロに甘やかすタイプだよ」  耳が蕩けそうな声で呟く。 「もう、一颯さん!!」 「またまた、圭はすぐ変なこと想像するんだから」 「してない!!」  また、俺をからかって楽しんでる。 「もう、機嫌直して。ほら、金魚すくいでもしようぜ」  目の前に、金魚すくいの屋台があった。 「懐かしいな。金魚すくい。昔よく、姉ちゃんと金魚の数で競争してたよ」 「どっちが勝ったの?」 「もちろん、姉ちゃんだよ」 「千聖、強そうだもんな」 「そうそう。いつも俺が負けて、大泣きするっていう流れ」 「想像できるのがおもろいな。じゃあ、今日は俺と勝負しようぜ」  得意げな顔をしている。 「いいよ、勝利したら、勝った方の言うことを聞くことにしよう」  今日の俺は負ける気がしなかった。  あの器用な一颯が負けるところが見てみたい。  結果は、惨敗だった。圧倒的な差だった。  先制、金魚をすくえたのは良かったものの、その後ぱったりとうまくいかなかったのだ。  ─── 一颯さんは、何でも出来すぎてしまう。  幼い子供に混じって、少年のような眼差しでプールのキラキラ光る金魚を見つめる様子は、不可にもかわいかった。それは、内緒だけど。 「俺の勝利だな。あ〜圭に何してもらおうかな」  一体、何を要求されるんだ。 「あ、思いついた!あれ、着けてよ」  一颯さんが、指さしたのは、露天に売っているアンパンマンのお面だった。  俺は、言われるがまま、お面を着ける羽目になった。  大の大人が、アンパンマンのお面…。気まずい。  幼い男の子がこちらをみて、羨望の眼差しで見つめている。 「圭、それ似合ってるな、いいじゃん。そっくりじゃん」 「嬉しくない」  唇を尖らせて、拗ねたような表情を浮かべる。  一颯さんは、ずっと笑ってる。  でも、何だか嬉しそうだから、何も言えない。  嬉しそうなら、まぁいっか。  他には、射的もしたが、もちろん惨敗だったことは言うまでもない。  そのうちに、花火の時間になった。  一颯さんが、人混みが苦手な俺のために、人が少ない会場側の花火が見える神社を見つけてくれていたのだった。 「圭。俺、飲み物買ってくるわ。ここで待ってて」「あ、俺も行くよ」 「いいって。すぐだし」  ありがとう、と言うと一颯さんは行ってしまった。  まさか、一年前の俺は、来年、一颯さんとお祭りに行けるとは思ってなかったな。  あのとき、一緒に花火を見た気持ちはいつまでも忘れられない。辛くて、胸が苦しい。  そう思うと、今年一緒に来れてよかったなと心の底から感じていた。  その時、だった。 「君、一人?」  ニヤついた表情をした不審な金髪の男とスキンヘッドの男2人組が声をかけてきた。  何だか、本能的に危険なことを察していた。  無視をして、関わらないようにしていたが、片方の金髪のチャラい恰好をした方が追いかけて話しかけてくる。 「さっき一緒にいた人は彼氏?俺たちとも遊ぼうぜ」  スキンヘッドの男も続けて話しかける。 「兄さん、かわいい顔してんね」  気持ち悪い笑みを浮かべている。  すると次の瞬間、金髪の男が腕を掴んでくる。  必死に逃れようとするが、振り解けない。 「やめてください」 「ちょっと、俺たちといい事しようよ。  君、男も行けるんでしょ」 「……やっ」  一層、腕を掴む手が強くなる。  ハアハアと息をこぼしながら、こちらをみる。  気味が悪く、すっと悪寒が走る。 「そんな、エロい声だして」  抱きしめて来ようとする。  ─── 怖い。一颯さん、助けて。  ギュッと目を瞑った。  すると、金髪の男がガンっという音とともに、地面に倒れた。 「おい!何やってんだ、てめぇ」  一颯さんが見たこともない怖い顔で、拳を振り下ろしていた。  拳がみぞおちにめり込んだようで、男は唸り声を上げて、横たわっている。そこを一颯さんは追い打ちをかけるように、殴りかかろうとする。  スキンヘッドの男は、傍にいるが、一颯さんの迫力に圧倒されて怖気づいている。 「も、もう大丈夫だから」  ピタリと一颯さんの殴りかかろうと振り上げた拳が止まる。 「大丈夫じゃねぇだろ。こいつに何されたと思ってるんだよ」 「何もされてないよ!一颯さんが助けに来てくれたから」  そうしていると、少し先から懐中電灯を持った警官が来た。花火大会であることもあり、会場周辺を巡回しており、その時にこちらの騒ぎに気がついたようだ。  警察からは、訴えるか聞かれたが、腕を捕まれた以外は何もされていなかったため、俺は大ごとにはしなかった。  そのため、男たちは警察から厳重注意を受けていた。その間、ずっと男たちは青ざめており、よほど先程の一颯さんの気迫が怖かったようだ。 「ごめん、一颯さん。花火終わっちゃった」  花火どころではなくなってしまい、結局花火は見られなかった。 「いいよ、別に」  素っ気ない、返事が返ってくる。  殺気立っている一颯さんにこれ以上声をかけられない。こんな姿を見るのは初めてだった。  そのまま、予約してくれていたホテルの一室のドアを開ける瞬間まで無言だった。  部屋のドアを開けた。 「ねぇ、一颯さん…返事してよ」 「…なんだ…」 「なんて?」 「…なんで、そんな平然としてられるんだ。  いや、違うな。ごめん、俺があの場を離れなかったら、圭は怖い目に遭わなかった。俺自身の不甲斐なさに、腹が立っていた」 「そんなことないよ。一颯さん、助けに来てくれたじゃん」  一颯さんをぎゅっと抱きしめる。 「良かった。間に合って」 「うん。ありがとう」 「良かった….」  自然と目が合い、唇を重ねる。 「…んんっ、ふぅん」  息が出来ないくらい、口付けが深い。  キスしながら、ゆっくりと俺を後ろのベッドに押し倒す。 「…ん、んっ、…苦し…い」  それでも、止まらない。  どことなく、一颯さんの瞳も鋭く険しい。 「圭、手を貸して」  キスでぼぅと何も考えられない俺は、なんの疑いもなく両手を一颯さんの目の前に差し出す。  すると、一颯さんが俺の浴衣の帯をするすると解き、俺の両手は帯でひとつにまとめられていた。 「…へぇ?一颯さん?」 「本当は、このまま閉じ込めてしまいたい。  でも、それは出来ないから、今日はこのまま手首を縛ったまましよう」  ─── 今日はどうしちゃったの。一颯さん!今まで、そんなことなかったのに。…俺はいいけど。  帯を取ったせいで、中のパンツ一枚が見えるいやらしい恰好になっていた。  一颯さんは片手で束ねた俺の両手を持ちながら、片手で俺の胸の突起を苛め始めた。指の腹で、捏ねたり、潰したりする。 「…はぁうん、あっ、ああ」  いつもと違う一颯さんの愛撫に、感じてしまう。  ─── 一颯さん、こんな意地悪だったか?!  圭は、一颯さんドSな本性に困惑していた。  それと同時に、圭は酷く興奮していた。  そんな自分自身は、俺はドMなのかもしれないなと考えていた。 「…何考え事してるの?そんな余裕あるの」  一颯さんが右胸の突起を摘んで、引っ張る。そして、左胸の突起を口に含んで、優しく舐める。 「…ああぁ、くあっ、あんっ。そ、そんな舐めないで…」  強い快感に頭が蕩けそうだ。  胸しか触られてないのに、前が張り詰めている。 「圭、胸だけでイきそう?いいよ、イって」  ふっと、甘い顔で意地悪く笑う。  次の瞬間、口に含まれていた左胸の突起を強く噛まれたと同時に達した。 「…あああああぁ、ああ」 「イったね。かわいい…」  向かい合わせの体勢から、うつ伏せに変えられる。  その頃には、すっかり両手首を拘束していた、浴衣の帯は解けていた。  そして、背後から一颯さんの手が前に回り込み、俺の大事なところへの伸びる。入口を撫でたあと、ローションを垂らして指先がぷつりっと入る。 「…くはっ」 「苦しい?大丈夫、しっかり解すから」  ゆっくりと一颯さんの指が俺の中に侵入して、かき混ぜる。  ぐちゅり、ぐちゅりと淫靡な水音が部屋に響き渡る。俺は、与えられる愛撫に応えるように、ただ喘がされていた。  一本、二本、三本と指が増えていく。解される度、指を飲み込んでいく。 「…も、もう、挿れて、一颯さん…」  もどかしい快楽に、無意識に腰を振らしながら堪らず訴えた。 「…まだ、だよ…。圭の感じるところここでしょ」  一颯さんの声が興奮で上擦っている。  俺の奥の一番感じる前立腺のところを、刺激される。 「…もう、また、いくっ…」 「だめだよ。まだ」  性器の根元をぎゅっと握られる。 「な、なんで…」  苦しくて涙目になる。 「まだ、待って。俺の挿れるから」  ずるっと、中から指を引き抜かれる。その代わりに、一颯さんの張り詰めた質量のあるものをあてがわれる。  屹立の先端が入り込んでいき、粘膜の内側がそれを包み込む。 「......ぁ…………あっ…………」 「動くよ」  一颯さんの欲望に満ちた声が響く。  これから得られる感覚への期待で、自然と腰が動いてしまう。  ゆっくりと律動が始まる。  後背位で一颯さんの両手が俺の腕を掴んで離さない。気持ちよくて、身体をよじると、身体を反らせてしまい、羞恥に耐えられなくなる。  今日は、バックから攻められて、普段なら入らない所まで奥深くまで入り込んでくる。  次第に激しくなっていき、熱い圭の中をかき混ぜる。  部屋に2人の 吐息と肌と肌がぶつかり合う卑猥な音が響き、恥ずかしい。 「…っ、やっ、あ、ああ」  薄く開いた唇から荒い息を零す 「…気持ちいい?圭」  気持ちいいのと、恥ずかしいので圭は俯いた。  すると、強く、ずんずんと奥を突く。 「あ─── ……っ、それ、やだ、あ」 「ほら、ちゃんと言って」  ずるい。言葉で言わせようとしてくる。完全に、こちら側の敗北だ。 「…き、きもちいい…」  一颯さんは満足気な顔でこちらをニヤリとみている。悔しいな、いつも俺ばっかり。  動きが止まることはなく、ますます激しくなる。 「いぁ…っ、いや、はげし、あっあ、あ…っ」  激しく揺さぶられて、甘い嬌声を上げる。  次の瞬間、強い突きが来て、一瞬頭が真っ白になった。それは、圭自身が達したことを表していた。  何も考えられない。このまま、快楽に溺れそうだ。 「圭、好き」  再度、身体を揺さぶり始める。 「……っ、待って、おれイったばっかっ」 「ごめん、あと少しだから、俺もそろそろ…」  一層、動きが早く強くなる。 「…んっ、イく」  一颯さんが小さく呟いたと同時に、中のものが震えて、奥が熱いもので満たされる。  2人ともはぁはぁと息を乱しながら、二人羽織のように正面へ重なり合って、ベットに落ちた。 「…今日の一颯さん、意地悪っ」 「…ごめん、今日は、自分の中の独占欲が止められなかった…。いつ、圭が他の男に取られるんじゃないかと思うと…」 「なんだよ、それ」  そんなことを言うのは、世界で一颯さんだけだよ。  でも、舞い上がりそうな気持ちを抑えきれない。 「ごめんな、酷くして。身体、大丈夫か」  情事の最中とは違い、いつもの一颯さんだ。 「ほんと、一颯さんのせいで。身体、バキバキなんですけど」 「ほんとごめん。でも、バック良かったな」 「もう、バカ!」  からかうように笑ってみせる。 「また、来年、一緒に花火大会行けたらいこうよ」 「当たり前だろ。あんなに、圭、お祭り苦手って言ってたし、今日のことがあったから、もう一緒にお祭り来てくれなかったらどうしようって思ったよ。良かった。  俺の布教のおかげだな。  来年は、この地域の祭り全制覇だ」  こんな、当たり前に未来の話を2人で話せることが尊くて愛おしい。  一日でも多く、この愛おしさを噛み締めてたい。  暗がりにひんやりとした布団の中で肌が触れ合いながら眠る、深夜2時半。  先に眠ってしまった一颯さんに、小さく呟いた。  まだ、直接言うのは照れくさいから、今度ちゃんと言うから。  ─── 愛してる。
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