⑫13番目の呪われ姫は特効薬になる事を願う。

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 王都の夜に満月が浮かぶ頃、伯爵はいつも通りボロボロの離宮に足を踏み入れる。 「お仕事お疲れ様です! 伯爵」  そう言って伯爵を出迎えた、彼女の名前はベロニカ・スタンフォード。この国の13番目の王女様である。 「珍しいですね、こんな時間に姫が外にいるなんて」 「ふふ、あまりに月が綺麗だったので。ついフラフラと」    そう言って微笑んだベロニカは夜風にたなびく髪をそっと耳にかける。  月の光を受けて一層銀色に輝くその髪と猫のような金色の瞳が、彼女をいつも以上に幻想的な存在に見せていた。 「ねぇ、伯爵。知っていますか? 100年に1度満月の夜にしか咲かない花の話」 「月光草。月の光に照らされて咲いた花の蜜からは、万病に聞く薬が作れるそうですね」  伝説上の植物ですけれど、と伯爵は小説の題材にも使われるその植物について、知っていることを口にする。 「何にでも効くと言うのなら"呪い"も解いてくれたらいいのになぁ」  ベロニカは大きな大きな満月を見上げて、歌うようにそうつぶやく。 「では、探しに行ってみますか? 月光草」  本物があるかどうかは判りませんが。  そう言って差し出された手と伯爵を交互に見たベロニカは、 「夜の散歩なんて素敵ですね」  満面の笑顔でその手をとった。  この国の王家は呪われている。 『天寿の命』  寿命以外では死ねなくなる呪い。王の子として13番目に生まれてきたために、ベロニカはそんな呪いにかかっている。  "呪われ姫"と呼ばれる彼女は、 『第13子呪われし姫を殺した者に褒美を取らす』  そんな陛下の命令で常に命を狙われている。  それでも彼女は今日も元気に生きている。  なぜならいくら命を狙われても、時限爆弾は可愛らしい鳩時計に、銃口から放たれた弾丸は万国旗に、呪いの効果で早変わり。  どんな暗殺者の刃も呪われている彼女には届かない。  一向に死なない呪われ姫を暗殺すべく陛下が出した傍迷惑な御触れ。 『伯爵家以上の貴族は最低一回、どんな手段を使っても構わないから、呪われ姫の暗殺を企てろ』  そんな命令で結ばれてしまった呪われ姫と伯爵の縁は切れることなく今も続き、ベロニカに気に入られて彼女の専属暗殺者となった伯爵は今日も彼女の暗殺方法を考える。  いつかベロニカの呪いを解いて、呪われ姫をこの国から消すために。
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