はなしあい、はなしあい。

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はなしあい、はなしあい。

 これは、僕がまだ小学生だった頃の話。  今でこそ東京のど真ん中に住んでいる僕だけれど、子供の頃は某県の田舎町に住んでいた。どれくらい田舎というと――ちょっと駅から離れた方に歩くと田んぼだらけだとか、コンビニと商店街はあるけど大きなショッピングモールはないとか、駅はあるけど線路が一本だけとかそういった具合。  よくある田舎の農村、のような場所と比べたら便利だけれど、都心と比べたらちょっと不便。そんな程度の町だ。  雰囲気で言うなら、ドラえもんのキャラクターたちが住んでいる町がだいぶ近いと思っている。特にそう、学校に裏山があるあたりが。  この学校の裏手にある山。ちょっとしたいわくがあることでも有名だった。  幼稚園の頃から、大人たちには口が酸っぱくなるほど聞かされていた話があるのだ。 『いいか?あの裏山に、一人で入るんじゃないぞ。特に、夏の終わりから秋になる頃が一番危険だ。あそこには特別な神様が住んでいて、いい子にしていない子供を攫ってしまうんだ。お前はやんちゃで悪戯小僧だから心配だよ』  確かに、僕は子供のころ結構なやんちゃ坊主だった。  両親に“木に登るな”と言われたら登ったし、先生に“廊下を走るな”と言われたら走ったし。それで落ちたり転んだりしてすぐ大泣きしたし。  けれど、同じ町に住んでいるお祖父ちゃんにそう言われた時は、子供心にちょっとムっとしたものである。何故なら、神様が攫うのは“いい子にしていなかった子供”ということになっていたからだ。それはつまり、“悪い子”ということ。僕は悪戯小僧だけれど、人を傷つけるような悪口は言わないことにしていたし、お父さんやお母さんの言いつけだって何でもかんでも反抗したわけじゃない。  お祖父ちゃんの中では、僕は悪い子判定なんだろうか。そう思ったら、そりゃあ腹が立つというものだ。  それでも、僕が反発して、一人で裏山に行くのを避けた理由はただ一つ。 『知ってる、晴陽(はるひ)くん?……あの山でまた、子供がいなくなったそうなのよ』  お母さんの、心配そうな声。  そう、僕も知っていたからだ。本当に、あの山で時々人が消えるということを。それも、小学生くらいの子供ばかりが。
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