天才生成薬💊

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天才生成薬💊

新興の製薬企業M社によって、天才を生成する新薬が開発された。 人体に危険が及ぶような大掛かりな手術や長期間の放射能照射などが必要な訳では無く、比較的簡単な薬の投与だけで済むものではあったが、それでも薬品と施術に関する専門医師のケアに掛かる費用は、一般の人々にとってまだまだ高価なものであった。 開発当初は「誰でも簡単に天才になれます」という謳い文句に胡散臭さはあったものの、生活資金に困らない一部の富裕層のみが、半ば余興的に使用し始めた。 医師による十分な経過観察と事後処置に多額の費用を掛けることができる生活層であったことが影響してか、新薬投与による副作用などの人体事故もなかった。 ある一流企業に勤める会社人は、並居るライバルを押し伏せて、僅かな期間で重役の座を掴み取る成績を収めた。 己の追求する理念を実現すべく企業の上層部に入り込みたいと考えていた彼の熱意を会社の誰もが知っていたので、大抜擢とも言えるこの異例のスピード出世が彼の意欲によるものなのか、はたまたM社の新薬の効果によるものなのかは今一つ判断出来かねた。 薬は未成年への投与は人体への投薬結果検証が不十分な為にまだ禁止されていたが、そのうち、某有名大学に入学したくて高校卒業後に何浪も重ねていたある予備校生が、薬のお陰で合格したという噂がまことしやかに囁かれ出した。 その浪人生の日頃の合判予備テスト結果や、日頃の勉学に対する煮え切らない姿勢を知っていた周囲は、愛息を何としてでも全国最高峰の大学へ入学させて家系の大企業の跡取りに据えたい、と考える親馬鹿の父親が件の薬にすがり、合格と相成ったのだろうと結論付けた。 薬の効果は誰の目にも明らかな程の効用があることが知れ渡ると、薬を求める人々は急増した。会社での出世昇給を望む会社人のみならず、店を構える自営業者やプロスポーツを生業とする自由業の者まで、皆がこぞって薬を服用した。 まだ多少値が張る新薬ではあったが、十分に利益の恩恵を還元してくれるものであった。 薬が爆発的な売れ行きとなり、服用者からの多大な使用データも採取できるようになった結果、M社は販売価格の大幅値下げを行い、未成年にも服用できる改良品を世に出した。 薬は飛ぶように売れ、瞬く間に全世界の人間が服用することとなった。 こうして、全世界で高水準の知能指数を有する者の割合が80%を超え、90%を超え…… やがて十数年後、この世から天才は消えた。 人類の100%が知的高水準となってしまった今、「天才」と呼ばれる他人より抜きん出た人間は、もはやこの世に存在しなくなったのだから。
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