鎮痛剤

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鎮痛剤

 オックス・リーを殺したのは私ということでいいじゃないですか。医師に処方してもらった鎮痛剤を彼に譲って飲ませたのは私ですわ。あの日の彼、とても、辛そうにしてましたから。鎮痛剤摂取によるアレルギー反応およびそれによって生じる脳浮腫のリスクなんて知りませんでしたわ。知っていたとしても、それがあのタイミングで実際に起こるなんてのは予想だにしませんでしたけれど。それでいいじゃないですか。  彼の最期について詳しく知りたいということですけど、広く世間に知れ渡った事実がすべてですわ。他に彼について話せることなんて何もありません。誰もが知る不世出のアクションスター、銀幕の中では最強の男も、裏では健康に問題を抱えていた。それでいいじゃないですか。  ジャーナリストであると同時にオックスの大ファンだから、彼についてのことならなんでもいいから話してほしい。訪ねてくる記者の皆様、判を押したようにそうおっしゃいますのよ。私に何を期待されているんです。知られざるオックスの美談? 醜聞? もちろん、どちらも存じておりますわ。愛人でしたから。  彼はコンプレックスから脱却するために強さを追求し、実際に自身がイメージした通りの姿を銀幕に残すことができました。もちろん克服できない弱さもあったのでしょう。人間ですもの。こう語れば、あなたの満足する美談になりますかしら。それでいいじゃないですか。満足しないんですの。じゃあ、ひとつだけとっておきの私にとっての美談、ファンにとっては最悪の醜聞をお話しいたします。話し終えたら帰ってくださるかしら。  ある女優の談話より抜粋。
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