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1.
そうだ、博物館へ行こう。
そういう話になった。
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ことの始まりは1枚のチラシだった。
9月はじめ、ある日の夕方。仕事から帰ったとき、靴箱の上に無造作に放ってあったのが目にとまった。
淡海県立 文化・自然史博物館
秋の特別展 ~栄光の人類史~
ぼくらはどうやって"人類"になったのか。
獣人と人間の共存のはじまりから、人類として手を取り合い、文明を拡大・発展させ、今日にいたるまでの歴史をたどる。
カラー印刷の紙面を読み上げていると
「や、おかえりー」
同居人の柴本が、台所から顔を出した。
ぴんと立った三角耳。赤茶と白の毛並み。犬獣人――彼ら自身は犬狼族と名乗っている――のなかでも日本人としてはありふれた、柴という系統に属している。
身長は162センチと小柄ながら、体重78キロのそこそこ肉付きのよい体躯。手足が短めなのは先祖の誰かがコーギーだったからだと聞いている。
「メシ、すぐ出来るけど先に風呂済ませて来いよ。おれ、お前の後じゃねぇと入れねぇから」
そうするねと返しながら靴を脱ぎ、玄関に上がる。
少し前に獣人アレルギーがあることが判明したわたしに、彼は何かと気遣ってくれるのだ。さいわいにも、わたしが発症したそれは非常に軽症の部類だった。同じ家で暮らすだけならば殆ど問題はなく、普段ならば薬も必要ない。
ただ、急に症状が悪化した例も決して少なくはない。そうならないようにと、当事者であるわたし以上に慎重になってくれている。本当にありがたい話だ。
「そうそう、そのチラシのやつ、おれも設営とか色々手伝ったんだぜ」
洗面所のドアを開けようとしたところで、柴本がふたたび顔を覗かせた。とても誇らしげだ。尻尾をものすごい勢いでぶんぶん振っていそうな感じが表情に出ている。角度のせいで見えないけれど、一緒に暮らし始めてからそれなりに経てば何となく分かってくるものだ。
「なぁ。今週末にでも行かねぇか? 行こうぜ!!」
そうして、話はまとまったのだった。
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