幻覚

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 国家保健省の一室。テーブルを挟んで二人の人物が向き合っている。 「補佐官。新薬の効果はどうですか」 「はい、効果が認められたという事例が、各地の病院から上がって来ています。幻覚を見る患者に新薬を与えたところ、直ちに効果が現れたという報告が集まっています」  補佐官が手元の資料を見ながら答える。 「よかった。私も大臣の首が繋がったわ」大臣が安堵の表情を浮かべる。「それで、効果はどれほど持続するの?」 「気になりますよね。治験段階では、従来の薬は半年間持続するといわれていたのに、人によってはそれより短くなる場合がありましたからね。でも、ご安心を。新薬の効力は一年より長いです」 「毎年一回、予防接種をすればオーケーってことね」 「ええ、そうです。念のために、予防接種を拒否した場合の罰則をもっと厳しくすればいいかと」 「それがいいね。国民にとっては、予防接種をするほうが幸せだからね」  そう言って、大臣は窓の外を眺めた。遠くに山の連なりが見える。新緑の季節だというのに、山は緑で覆われておらず、煤でまぶされたように黒ずんでいる。  自然環境は破壊されたままだ。核戦争で破壊された自然が、簡単に復旧できるわけがない。焦げた木が残る山。泥が堆積した沼。飛び回るゴキブリ。それが現実の風景だ。  どうやら私も薬の効果が切れたようだ。後で医務室に行って注射を打ってもらおう。そうすれば、幻覚によって素晴らしい自然が目の前に現れる。 「報告ありがとう」  大臣は補佐官に視線を移した。ふと、壁の時計を見る。もうお昼になっている。 「良い報告をしてくれたお礼にランチをご馳走するよ。ステーキなんてどう?」  薬を打ってもらえば、大ネズミの肉だってビーフステーキになるのだ。  
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