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南千住駅の改札を出ると、出入り口をふさぐように長い列が出来ていた。その源流にはバス停があり、その横には歩いて花火大会に向かう人々が、滑らかな流れをつくっている。
家を出る前に見たニュースの内容から、浅草に立ち入るのを避ける選択をとったのは、どうも正解だったらしい。試し打ちの花火の音を聞きながら、私もその流れに乗って白鬚橋に向かい歩きはじめた。
打ち上げ開始時間まで特にやることもなかったので、スマートフォンに目線を落とし、昔撮った写真を流し見していた。すると、とある写真に写る人物に目が止まってしまった。
この人は、「元」友達だ。
最後の返事は、私のメッセージに付いた既読表示のみ。最後に安否を確認したのは、昨晩見たニュース欄の中。何かすごい賞を獲ったという彼の写真によってであった。その記事を読んだ時に湧いた感情は、「忘れたい」だった。
私の知らないところで、知らず知らずのうちに大きくなっていたかつての友達。私の元からいつのまにか去っていった、かつての友達。
何となく体が落ち着かなくて、南風が吹き抜ける白鬚橋を渡りはじめる。私は心臓のあたりに、ひりひりとした痛みを感じた。まるで、転けて擦りむいてしまった肌に、風が当たった時に感じるような痛みだ。よく似た痛みを、昨晩も感じていた。そもそも、その痛みを忘れたくて、わざわざ外に出たというのに。
花火の音が背中をふるわせた。各所から黄色い歓声があがる。ちょうど橋を渡り終えた私は、音のする方を向く気にもなれず、流れに身を任せて歩き続けていた。
静かな場所で、一人になりたかった。橋の東詰にある公園の、人気のない場所へと向かい、一息ついた。
すると、視界の隅で、何かが光ったような気がした。
思わずそちらの方を向く。その正体は、着火され打ち上げられたばかりの、花火の玉のようだった。堤防と首都高速道路の高架橋との間を通過していく閃光。鋭い音の後、ちらちらと降り注ぐ燃えかす。一番肝心な、花火がひらく瞬間だけは、高架橋に遮られて全く見えなかった。
そんな光景を、写真に収めた。この光景こそが、現在の私と彼の関係そのもののような気がして、妙に腑に落ちたのだ。
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