最後の夏

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 淳平(じゅんぺい)は西平(にしだいら)という農村に住む中学2年生。来年度からは高校受験だ。楽しみな半面、厳しい勉強に耐えなければいけないという重圧もある。  淳平は西平中学校に自転車で通っている。毎日大変だけど、学校に行かなければならない。  夏休みも終わりが近づいた頃、夏休みの宿題を終わらせた淳平は、西平中学校の辺りを自転車で散歩していた。この辺りは田園地帯で、その中にポツンと中学校がある。  そんな西平中学校だが、今年度限り、つまり来年の3月で閉校する事が決まった。最盛期、西平中学校は500人ぐらいの生徒がいたらしいが、周辺の過疎化が進み、閉校が決まった。現在の生徒数は10人にも満たないという。順平のような2年生はわずか3人だ。だが、みんながまるで家族のように仲良しで、いつもみんなで遊んでいる。そして、その遊びに先生も参加する事もあるらしい。  淳平は校舎を見た。もうこの校舎に入るのも来年3月までだ。寂しいけれど、これも時代の流れだろうか? 時代の流れには逆らえないんだろうか? 「この学校も来年の春までなのか」  淳平は入学してから今までの日々を思い出した。期待と不安であふれた入学式。とても少ないけれど、みんなが家族のように優しかった。遠足はみんなと行動を共にして、とても楽しかった。だけど、この中学校での思い出は、来年3月までだ。 「最後の夏、みんなはどんな気持ちで過ごしてるんだろう」  淳平はみんなの事を考えた。夏休みはみんなと遊ぶ事があまりない。今頃、みんなはどんな夏休みを送っているんだろう。まだ夏休みの宿題をしているんだろうか? 旅行をしているんだろうか? 夏休みの宿題を終えて、遊んでいるんだろうか? 「あと少しで夏休みも終わりか」  淳平は閉校になった後の事を考えた。この校舎はどうなるんだろう。全く予想できない。できれば、何らかの形で残してほしいな。 「この校舎はどうなっちゃうんだろう。できれば、残してほしいな」  淳平は辺りを走ったが、誰もいない。みんなどこにいるんだろう。 「寂しいな」  と、順平は校舎にいる老婆に反応した。あれは、去年亡くなった祖母、タエではないか。まさか、ここにいるとは。幻だとわかっていたが、思わず近づいてしまった。 「あれ? おばあちゃん」  タエはその声に反応した。まさかここで順平に会うとは。 「どうしたんだい?」 「ちょっと辺りに来てみただけ」 「そうかい」  タエは笑みを浮かべた。とても優しそうな表情だ。タエと過ごした日々がよみがえる。  淳平は再び中学校を見た。すると、タエも中学校を見る。タエもその中学校に思い出があるようだ。タエもこの中学校の卒業生で、もし生きていて、閉校することを知ったら悲しむだろう。 「この中学校、閉校になるんだね」 「そうなのかい。寂しいね。わしもその卒業生として、寂しいわい」  タエは悲しそうだ。母校が消えてしまうなんて、やはり寂しいんだろう。これからもあるだろうと思っていたのに。時代の流れに逆らえないんだろうか? 「そうなんだ」 「私が通っていた頃は、多くの生徒がいた。だけど、今では数えるほど。これではなくなるわな」  タエは昔の中学校を思い出した。あの頃はとても賑やかだったのに、今では数えるほどしか生徒がいない。あの頃の賑わいはもう戻らない。そして、西平中学校は思い出になってしまう。寂しいけれど、いずれはそうなるんだろうか? 「僕も寂しいと思う。この学校の記憶がだんだん忘れ去られていくようで」 「その気持ち、わかるんだね」  タエは思った。どんな世代でも、西平中学校がなくなるのは寂しいと思うんだ。きっと閉校式では多くの人が集まるだろうな。そして、この中学校での思い出を語り合い、涙するだろうな。 「うん。だけど、ここでの日々の思い出は、永遠に心の中に残るんだね」 「そうだねぇ」  こうして、順平は中学校を後にした。あと少しで夏休みが終わり、再び学校が再開する。そして、この中学校の最後の夏休みが終わる。生徒はどんな思いで、この中学校の最後の夏休みを過ごしているんだろう。学校が再開したら、みんなと語り合いたいな。
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