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プロローグ
「そうだ、ハワイに行こう!」
こうやって、うちの社長は時折突拍子もないことを言い出す。そのアロハシャツは一体どこから取り出したんだ。僕はデスクトップ型のパソコン、Macのディスプレイから反射して見えるアロハシャツ姿の社長を嗜めた。
「またそんなこと言って。ダメですよ社長。今、秋のキャンペーンで忙しい時期じゃないですか」
「いや、木之下は今手空いてんじゃん」
「それは......」
僕は気まずくなって思わず視線を泳がせる。ここは株式会社ステラデザイン。都市部にある9畳程度の貸しスペースを借りて少数精鋭で仕事をまわしているWEB制作事務所だ。いつもはHP制作やバナー広告のデザイン、デジタルコンテンツのプロモーションなどを行なっている。
今、僕はうちの大手取引先である毎星プラチナム社の新商品の公開日の準備の仕事を抱えていた。ここのプレスリリース、いわば世間に大々的に商品を告知する日まであと一週間という時期なのだが、社長の言う通り僕は暇を持て余している。
(いや、先方が素材を送ってきてくれないから仕事ができないんだ)
新商品がさつまいもドリンクであることは聞いているのだが、宣材写真もコピーも「明日送ります!」の延期ばかりで全く作業を進めることが出来ない。焦る僕の心を知らない社長はのめり込むようにして旅行会社のHPを見ている。
「俺、社員旅行っていうのに憧れがあってな。お! 夏の最後にハワイプラン、格安になってんじゃねーか!」
ーーテロン♪
となんだか不穏な音がして、振り返ると30代の人懐っこそうな顔をした社長が満面の笑みをたたえていた。
「木之下。パスポートは持っているな。明日からハワイに行くぞ!!」
「えっ!? いや、ちょっと。僕には毎星プラチナム社の新商品のプレスリリースの仕事があるんですよ!?」
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