公開日まであと1週間だが、クライアントから一向に素材が来ない! そうだ、ハワイに行こう!

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公開日まであと1週間だが、クライアントから一向に素材が来ない! そうだ、ハワイに行こう!

「これがハワイの誇るガーリックシュリンプ! 新鮮なエビとニンニクの風味漂う特製ソースの味わいが最高だなっ!」 「はぁ」 「脇にあるパイナップルはハワイにあるプランテーションからの直送だ! 熟れ加減の見極めが最高だから日本で食べるものよりも美味しく感じるな!」 「そうですね」 (どうして来てしまったんだろう)  僕達はホテルそばのレストランで社長から料理の説明を受けながら、ハワイ料理を囲っている。  ここ、ハワイのワイキキビーチに居るのは社長と僕、デザイナーの白峯さんだ。白峯さんは20代後半のクールで独特な雰囲気を持つ女性で、我関せずと言った風にマヒマヒ(日本で言う白身魚シイラ)のソテーを上品にナイフで切り分けている。  ふと、僕はここには居ない会社のメンバーに思いを馳せる。 「そういえば聞き忘れましたが、日高さんと皐月さんは?」 「日高は”昨日の今日でいきなりハワイって行けるわけない”、皐月は”家庭の事情でパス”だそうだ」 「......。」 (これ断って良いやつだったんだ。って、そうだよな。皐月さんはともかく、日高さんとか常識人だもんな)  僕はいつもながら自分の押しに弱い部分に辟易した。言われるがままに急いでスーツケースを準備してパスポートを掘り出した僕の頭に断るという選択肢はなかった。  社会人二年目、22歳の僕は社会にまだ慣れていないらしい。 (納期前なのに)  ビーチではしゃぐ観光客の声を聞きながら、僕は何故来てしまったのかと天を仰ぐ。
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