セラピスト

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 しんと静まってしまった部屋の中。  先生の様子を窺うと、先生は俺の両頬に手を添えて笑った。 「先生……いや、航生さん」 「ふぇっ!?」  急な名前呼びに驚いて変な声が出る。 「正直、高尾先生は苦手なんですが。確かにプライベートは名前でもいいな、と思いまして?」  笑う先生は悪戯を成功させた子供のようにも見えた。  そんなこと言っていたような気はするが、今!?と驚きとやはり照れもある。なのに、 「だから、航生さん……僕も呼んでくれます?」  強請るようなその表情はズルい。  まだ名前で呼ばれた気恥ずかしさも残っているのに俺も名前で呼べとは……ハードル高くないか!? 「……〜〜〜っ!!」 「ふふっ!真っ赤ですね!」  ツンと頬を突付かれてその胸の中に逃げ込んだ。  恥ずかし過ぎて顔なんて上げられない。 「航生さん?こっち見て下さい」  なのに先生は楽しそうに声を弾ませて呼んでくる。 「……先生の方が歳上ですよ?」 「あれ?そうでした?僕、二十七ですよ?」 「俺、二十六なんで」 「一つだけじゃないですか!」  その胸からちょっと目を出して言うと、先生は笑って俺の頬にキスをしてきた。 「じゃあ……航生?」  耳元で囁くように言われてピクッと跳ねてしまう。  何でこんなにも恥ずかしいのか。 「……もしかして、僕の名前わかりません?」 「はい!?冬弥ですよね!?」 「はい!」  満面の笑みを向けられてちょっとハメられた気もする。  ちょっと悔しくてそっぽを向くと、追いかけられてキスをされた。
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