最後の花火

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イーゼルに立て掛けられた真っ白なキャンバスをしばらく見つめた後、パレットの上に絵の具を乗せていき、好きなようにキャンバスの上に色を落としていく。 バランスだとか、影だとか、細かいことは考えずに好きなように描く。ただ、筆を動かしていないと心が潰れてしまいそうな気がしたから。 八月二十六日、美術部の部室である美術部には教室にあるような冷房設備はない。古い扇風機が二台、ぬるい風を私に送っているだけだ。 いつもは数人の部員が絵を描いているこの美術室も、夏休みに入ると文化部は決められた活動日が少ないため、来る人はほとんどいなくなる。そのため、「バランスが〜影が〜」と口うるさい部長に気にせず好きなように描けるチャンスなのだ。 「……描けた」 どれほど筆を動かしていたんだろう。真っ白だったはずのキャンバスは真っ黒に染まり、そこには夏の風物詩の一つである花火が大輪の花を咲かせている。 ずっと絵を描いていたため、喉がカラカラに渇いている。私の脳裏に灼熱の太陽が照らし出す砂漠が浮かび、水分補給のために通学用鞄から水筒を取り出す。その時だった。
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